身の回りに危険が及んでいる。まずは安全の確保を急がなければならない。
その上ですみ分けを図ることが必要だ。共生への取り組みを中長期的な視点で進めたい。
政府はクマ被害対策パッケージをまとめた。人の生活圏からクマを排除する取り組みを柱に据える。既存の交付金の拡充や特別交付税措置で、自治体への財政支援を強化する。
環境省によると本年度のクマの犠牲者は13人と過去最多に上る。連日のような出没に、住民はもちろん、自治体や猟友会も緊張を強いられている。秋田県では自衛隊に出動を要請した。
国は現場の声を聞き、対策の実施を後押ししてもらいたい。
対策のうち、捕獲に関する緊急的な取り組みでは、13日から可能となった警察官によるライフル銃での駆除に加え、元警察官や元自衛官の狩猟免許の取得を促すことなどを挙げた。
短期・中期では、狩猟免許を持つ人を公務員に任用する「ガバメントハンター」について、人件費を国が支援したり、育成したりするとしている。
これまで捕獲を主に担ってきた猟友会は、高齢化で会員が急速に減少している。県内の猟友会会員は、次世代の育成に4、5年かかるとし、「その間に鉄砲撃ちは引退してしまう」と指摘する。
先々まで技能を継承しなければならない。国や自治体は、猟友会と連携し、捕獲の担い手確保を早急に進める必要がある。
何より重要なのは、人とクマのすみ分けを図ることだろう。
環境省によると、2003年度と18年度の調査の比較でツキノワグマの生息域は約1・4倍、ヒグマは約1・3倍に広がった。耕作放棄地が増え、山と人里の境が曖昧になったことが一因とされる。
対策では、短期的には緩衝帯の整備、農作物や果樹の撤去などをする。クマのえさとなるブナなどの広葉樹を山に植えるといった、将来にわたる取り組みもある。
クマをはじめとする獣害の最前線にある中山間地は過疎、高齢化が進み、作業に当たるには限界がある。長期的な計画の下で官民が協力し、クマを寄せ付けない人里の環境を取り戻したい。
本県も、市町村が行うクマの捕獲への財政支援を打ち出し、併せて11月末までとしていた「クマ出没特別警報」を来年1月末まで延長した。引き続き警戒を緩めず、安全策を講じねばならない。
