過酷事故を起こした東京電力の原発を再稼働に向かわせる重大な判断が下された。ただし、その判断に県民の理解が得られるかは不透明だ。

 再稼働に対する県民の不安は依然根強く、時期尚早だとの批判は避けられない。知事は自らの判断に対する県民の疑問や思いに向き合わねばならない。

 花角英世知事は21日、臨時の記者会見を開き、東電柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働を容認すると表明した。

 ◆合意形成とは言えぬ

 県議会12月定例会に再稼働の関連予算案を提出する。自身の判断と知事の職務を続けることについても諮り、信任を得られれば、年内にも再稼働への同意を国に伝える見通しだ。

 2011年の東日本大震災に伴い、福島第1原発で世界最悪レベルの事故を起こした東電が、事故後初めて原発を再稼働させる公算が大きくなった。

 東電は6号機の早期再稼働を目指している。準備が順調に進めば、26年1月にも原子炉起動が可能になるとみられる。

 原発事故で避難を迫られ、故郷に帰れずにいる人は県内にも少なくない。そうした中で同じ東電が運転する原発の再稼働を本県が容認する意味は重い。

 前提として知事は、国に対して、原発の安全性を丁寧に説明することや、避難道路を早期に整備するといった7項目の対応で確約を求めるとした。

 会見では、県が実施した県民意識調査で、安全対策の認知度が高くなるほど再稼働に肯定的な意見が増える傾向があったと説明し、「周知を継続することで再稼働への理解が広がると判断した」と述べた。

 しかし「どのような対策を行ったとしても再稼働すべきではない」との設問を見ると、安全対策の認知度が高い層でも賛否は拮抗(きっこう)している。周知が広がれば、再稼働を容認する意見が増えるとは言い切れない。

 意識調査では「再稼働の条件が現状では整っていない」と考える人が6割を占めていた。

 県民合意が形成されたとは言い難い調査結果だったことを踏まえ、知事が県民の意見に逆行する判断を下したと受け止める人はいるはずだ。

 意識調査で、東電が柏崎刈羽原発を運転することを心配だとする回答が7割近くを占めていたことも無視してはならない。

 柏崎刈羽原発ではIDカードの不正利用などテロ対策上の重大事案が相次ぎ、21~23年に原子力規制委員会が事実上の運転禁止命令を出す事態に陥った。

 重大な原発事故を起こしただけでなく、これまでの不祥事も重なり、県民の間で東電に対する信頼が確立していないことは、知事も会見で認めた。

 東電はテロ対策の改善を図ってきたはずだが、20日には、運転禁止命令期間の前後に別のテロ対策に関する問題が起きていたことも露見した。

 こうした事態が続くうちは信頼回復は遠く、東電が原発を運転する適格性や信頼性への疑念は払拭されない。

 東電は先月、6号機の再稼働を前提に、1、2号機の廃炉検討や、地域経済活性化などに向けた計1千億円規模の資金拠出を県側に示した。

 だが県民が求めているのは再稼働の見返りのような巨額の資金拠出ではない。組織全体で原発の安全と地域の安心に向き合う愚直な姿勢である。

 知事には東電に対する評価にも十分な説明を求めたい。

 ◆「信を問う」整合性は

 知事は再稼働の是非について自らの判断を示した後で、判断に対する県民の意思を確認するとしていたが、その方法は県議会に委ねられた。

 これまで知事は「存在を懸ける」と表現し、常々「信を問う方法が責任の取り方として最も明確で重い」と述べていた。

 「信を問う」という言葉に県民投票や知事選をイメージした県民は少なくないだろう。

 ところが知事は会見で「制度上、知事の職を止められるのは県議会しかない」と説明した。

 県議会9月定例会で知事が示した県民意思の確認方法を「尊重する」とした決議を受けたことなどを踏まえたというが、これまでの発言との整合性を問われるに違いない。

 最終判断を託される県議会は、知事与党の自民党が単独過半数を占めている。県民注視の問題で知事判断を追認するだけなら存在意義が疑われると、肝に銘じてもらいたい。