赤字国債に頼って歳出を増やし、財源問題を先送りして減税を行えば、財政は悪化の一途をたどる。経済対策の内容は、国会で慎重に議論しなければならない。

 政府が21日の臨時閣議で経済対策を決定した。物価高への対応として、子ども1人当たり2万円を給付し、電気・ガス料金補助によって、一般家庭の負担を7千円ほど軽減する。

 財源を裏付ける2025年度補正予算案の歳出と、ガソリン税の暫定税率廃止などの効果を合わせた規模は21兆3千億円程度となる。新型コロナウイルス禍以降で最大となった。

 高市早苗首相は「強い経済をつくるために戦略的な財政出動を行う」と話した。

 補正予算案は一般会計が17兆7千億円程度、特別会計が9千億円程度の歳出となる。臨時国会に提出し、野党の賛同を取り付け、12月の成立を目指す。

 子どもへの給付は国内の0歳から高校生年代までが対象となる。電気・ガス料金の補助は来年1~3月に再開する。

 自治体が自由に使える「重点支援地方交付金」に2兆円を計上し、うち4千億円を食料品高騰に対応する特別枠として、おこめ券や電子クーポンの活用を促す。

 ガソリン税と軽油引取税の暫定税率廃止のほか、所得税が生じる「年収103万円の壁」の引き上げによる減税効果は、計2兆7千億円と見込んでいる。

 造船業や人工知能(AI)、先端半導体の技術開発も支援する。

 対策の内容を巡り、与党は「国民に寄り添う」と評価するが、裏を返せば「ばらまき」と見ることもできよう。しっかり見極めてもらいたい。

 見過ごせないのは、対策を策定する過程で、金融市場で財政規律が悪化するとの懸念が強まり、円や国債が売られる「日本売り」の様相を呈したことだ。

 20日の東京外国為替市場の円相場は対ドルで下落し、一時1ドル=157円台後半を付けた。約10カ月ぶりの円安ドル高水準だ。

 国債市場は、長期金利の指標である新発10年債の利回りが一時1・835%まで急騰し、約17年半ぶりの高水準となった。

 円安の進行によって、輸入品などの物価高が加速し、家計負担の増加につながる恐れもある。

 首相は、当初予算と補正予算を合わせた25年度の国債発行額は、24年度を下回る見込みだと説明し「財政の持続可能性にも十分配慮した」と強調した。

 首相には国会審議を通じ、経済対策の内容だけでなく、今後の財政の見通しについて、丁寧に説明する努力が求められよう。

 市場の懸念を取り除くことができなければ、物価高対策が巨額の歳出に見合った効果を上げることは難しい。