自由で公正な選挙ではなかったことは明白だ。驚異的な支持を得たことを、額面通りに受け止めることはできない。

 ウクライナ侵攻に反対する主張を認めない選挙戦の結果であり、侵攻の正当化にはならない。

 ロシア大統領選の投票が3日間行われ、現職のウラジーミル・プーチン大統領が通算5選を決めた。得票数は史上最高の7600万票を超え、90%近い得票率を得て他の3候補を圧倒した。

 2000年の初当選以来、24年間実権を握っているプーチン氏がさらに6年間統治する。反対勢力への弾圧など独裁体制が一層強まることが懸念される。

 22年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、初の大統領選だった。プーチン氏は、「選挙への参加は愛国心の表現だ」と、国民に投票を呼びかけていた。

 政権側は大統領選で初めて投票期間を3日間にしたり、電子投票を導入したりして、投票率の向上を図った。

 プーチン氏は国民の幅広い支持を演出して、高い得票率を侵攻への「信任」とみなし、軍事力を一層強化する狙いなのだろう。

 当選後にプーチン氏は「国民の信頼に感謝する」と述べ、ウクライナ侵攻を目的達成まで続けると明言した。

 だが、選挙戦で侵攻を批判した候補者はおらず、侵攻の是非は争点にならなかった。

 侵攻反対を公言した野党元議員は中央選挙管理会に候補者登録を拒否された。侵攻反対票の多さが顕在化することを恐れたのではないかとの見方さえある。侵攻が信任されたとは、とても言えない。

 投票所に火炎瓶が投げつけられるなど投票妨害が相次いだのは、政権への強い不満の表れだ。人権団体によると、各地で多くの人が拘束された。

 許されないのは、ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部・南部4州の占領地で選挙を強行したことだ。

 銃で武装した兵士らが戸別訪問し投票を強制したほか、誰に投じたかが分かるように投票用紙を折り畳むことを禁じたという。

 民意を反映した選挙には、程遠い状況だ。ウクライナをはじめ日本や米国を含む56カ国と欧州連合(EU)が、「非合法な大統領選の実施を最も強い言葉で非難する」との共同声明を出したのは当然と言える。

 独立系機関が1月に行った世論調査では、和平交渉開始を支持する回答が52%で、作戦継続支持の40%を上回った。侵攻の批判は刑事罰に問われる状況にもかかわらず、隣国との和平を願っている国民が多くいることが示された。

 戦闘は膠着(こうちゃく)し収束は見通せない。プーチン氏は異論を封じ込めるのではなく、和平の道への転換を進めるべきだ。