生活の安定を実現できる予算かどうか。経済情勢に左右される側面が大きく、先行きは不透明だ。
国の2024年度予算が与党などの賛成多数で可決、成立した。一般会計の歳出は112兆5717億円で、23年度当初に次ぐ過去2番目の規模となった。
政府の防衛力強化方針を踏まえた防衛費や、高齢化に伴う社会保障費がいずれも過去最大を更新した。能登半島地震を受け、災害対応などに充てる一般予備費を5千億円から1兆円に倍増した。
予算成立を受け、岸田文雄首相は記者会見で、賃上げの実績とデフレ完全脱却の意欲を掲げた。6月に行う1人当たり4万円の定額減税もアピールした。
6月の国会会期末に合わせた衆院解散も視野に入れ、政権浮揚を図りたい思惑があるのだろう。
春闘は連合の集計で1991年以来33年ぶりに5%台の賃金アップが見込まれるなど、力強さを感じさせている。
一方で物価変動を加味した実質賃金は1月で22カ月連続のマイナスとなり、物価高に見合う賃金水準には至っていない。
中小企業の賃上げについて、首相は「実現に向けた対策を全力で講じる」と述べたが、現状のままでは大企業との格差がさらに広がる懸念が強い。
物価高対策を巡っては、政府が家庭や企業の電気・ガス代を支援する補助金を、5月使用分を最後に打ち切る調整を始めた。ガソリンや灯油など燃油価格を抑える補助金は当面継続する。
総額約10兆円の予算を確保し、昨年9月末までに約6兆円をつぎ込む異例の価格介入策だった。国民の痛みを和らげる効果はあったとはいえ、政治主導のばらまきの色彩が極めて強かった。
対策が出口に向かうことは必然だが、夏の冷房シーズンに電気代が急騰した場合の対策を、政府は検討しておくべきだろう。
24年度予算が国の借金である国債を新たに35兆円以上発行することにも課題がある。国債の元利払いに充てる国債費は金利の上昇基調もあり、27兆円となった。
物価高対策や新型コロナウイルス対策で国債発行を繰り返し、財政は一段と悪化している。
財務省によると、普通国債残高は24年度末に1105兆円に達し、対国内総生産(GDP)比で180%に上る見通しだという。
問題なのは、国債発行はいずれ税負担という形で国民に跳ね返るものなのに、政府がその道筋を示していないことだ。
野放図な財政運営は将来世代の深刻な負担になる。重要な議論を置き去りにしてはならない。
そのためにも国会は、焦点となっている裏金問題の解明を急ぐべきだ。多岐にわたる課題がありながら、議論を深めることができなくては、国会の責任が問われる。