「ロシアがウクライナを攻撃した」。ウクライナ北東部に住む女性が、ロシアで暮らす母親に電話で告げた。返ってきたのはこんな言葉だった。「違う。あなたの軍が戦争を起こしている」

▼親子がそれぞれ住んでいる場所は国境を挟んで1時間ほどの距離という。戦火を逃れてポーランドに出国した女性は母親が自分の言葉を信じようとしないことを涙ながらに話した。海外の通信社が報じていた

▼ウクライナとロシアは文化面などで深くつながる。互いの国に家族や知人がいることも珍しくない。そんな中、この女性の母親はロシア当局の主張を固く信じているようだ。肉親の言葉にも耳を貸そうとしない様子に女性は胸がつぶれる思いだろう

▼こうした状況に一矢報いようとしたのか。ロシアのテレビ局でニュースの生放送中、女性社員が「戦争をやめて」と書かれた紙を掲げた。「プロパガンダを信じるな」とも記されていた

▼社員の父親はウクライナ人、母親はロシア人という。今回の行動はロシア社会の一部に衝撃を与えたはずだ。だが現地ではこうした行為は処罰対象で社員は拘束された。当局は今後、さらに強硬になるかもしれない

▼ロシアと西側の分断が鮮明になってきた。体制や政治が絡む分断がどれほど災厄を生むかは朝鮮半島を見れば明らかだ。拉致問題の背景にも分断がある。悲劇を繰り返してはならない。テレビ局社員の行動がロシア当局の主張に風穴を空ける一歩にならないか。あまりにはかない願いだろうか。

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