具体的な負担額を政府が示さねば、制度に対する信頼は得られない。首相は「実質的な追加負担は生じない」と強調するが、本当なのか。国会での徹底した議論が求められる。

 子ども・子育て支援金制度を盛り込んだ少子化対策関連法案が2日、衆院で審議入りした。

 これに先立ち、政府は、少子化対策の財源確保で公的医療保険料に上乗せする支援金に関し、月平均徴収額の試算を公表した。

 被保険者の月平均負担額は、実際に支援金を払わない子どもらを含め、加入者1人当たり、2028年度に450円とした。これまで月500円程度として検討を進めていたが精査した。

 負担が最も大きい公務員らの共済組合は950円、75歳以上の後期高齢者医療制度は350円などと試算した。

 だが、公表は医療保険別の額だけで、実際の負担額は、共働きかどうかや所得で異なる。

 所得が多い人は負担がどれだけ増えるのかや、共働きで子ども1人の世帯ならいくら徴収されるのかなどのモデルケースは示さなかった。これでは、家計への影響が実感できない。

 政府は少子化対策に、今後3年間で3兆6千億円の財源が必要としており、支援金制度は財源確保策の柱の一つだ。

 徴収は26年度に開始し、総額6千億円から順次引き上げ28年度に1兆円とする。これに伴い負担額も段階的に増える。

 岸田文雄首相は、支援金制度について「実質負担ゼロ」を繰り返す。2日の国会審議でも「歳出改革による保険料負担の軽減効果の範囲内で行う。国民の新たな負担を求めない」と述べた。

 しかし、徴収によって家計の負担が増えることに変わりはない。負担増のイメージを避ける思惑が透けて見える。

 日本世論調査会が3月にまとめた少子化に関する調査では、支援金制度を巡る首相の説明に「納得できない」は「あまりできない」を合わせ81%だった。国民に理解されていないことは明らかだ。

 自民党議員からさえも「負担ゼロは詭弁(きべん)だ」との声が出ている。野党は「実質上の子育て増税だ」として追及する構えだ。

 支援金は現役世代から高齢者まで幅広く徴収するが、子育て世帯以外は負担に見合う利益が得られない可能性があるとし、制度に否定的な考えを示す識者もいる。

 医療保険という目的が異なる制度からの財源調達は、「給付と負担」の論理が崩れてしまうという見方もある。

 昨年の出生数は過去最少の75万人台まで落ち込み、想定を上回るスピードで少子化が進んでいる。

 支援金は異次元の少子化対策を実現する手法としてふさわしいのか、吟味しなくてはならない。