軍事面の連携強化が際立ち、日米同盟が新たな段階に入ったことを印象付ける会談だ。
対中国を意識する姿勢が鮮明だが、北東アジア地域の安定を図るには、米国偏重にとどまらず、主体的な外交で各国との対話を重ねていくことが欠かせない。
岸田文雄首相が米ワシントンのホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、共同声明を発表した。
両首脳は、日米同盟の抑止力、対処力の強化が急務とし、自衛隊と在日米軍の連携強化に向けた指揮・統制枠組みを見直すことで合意した。半導体や人工知能(AI)といった新技術で協力を促進することなどでも一致した。
念頭にあるのは、覇権主義的な動きを強める中国の存在だ。
共同声明では、東・南シナ海での中国による一方的な現状変更の試みを名指しで批判した。
バイデン政権は半導体製造で影響力を増す中国を警戒しており、会談では中国の半導体に対する世界的な依存度が高まることへの危機感なども共有した。
中国外務省は、内政干渉だとして強烈な不満を表明している。分断がさらに深まり、日中関係の一層の悪化が危惧される。
懸念するのは、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への大幅増をはじめ、岸田政権が加速させた日米間の防衛協力が、さらに強まる可能性があることだ。
共同声明が打ち出した自衛隊と在日米軍の連携強化では、日本は2024年度末に陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を新設する。
日米の共同対処力を高める効果の一方、司令部が強化され、自衛隊と米軍の連携が密になれば、有事の際に米軍による武力攻撃と一体化しかねない。指揮権を米軍が握る可能性や、日本が標的になる恐れも指摘されている。
首相の姿勢は前のめりに映る。主権に関わる問題であり、国民の理解を得ることが必須だ。
共同声明では、米国と英国、オーストラリアの安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の第2の柱である先進能力分野で、日本との協力を検討することも示された。極超音速兵器やAIの共同開発が視野に入る。
米側には軍事的に台頭する中国に対抗する狙いがあるが、日本は慎重に対応しなくてはならない。
共同声明は、中国と意思疎通する重要性も強調した。
日中間では、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に伴う海産物輸出を巡る問題や、スパイ容疑で拘束されている邦人の釈放をはじめ課題が山積している。
解決には、首相と習近平国家主席との直接対話が不可欠ながら、対面会談は2回にとどまる。
国益を守るために、首相には、米国を重視するだけではない戦略的な外交姿勢を求めたい。