大統領の求心力低下は避けられない。独断的とされる政治姿勢が招いた結果だ。今後は、国民の声に耳を傾ける謙虚な政権運営が必要だろう。
改善してきた日本との関係に影響が生じるか懸念される。日韓両政府は、両国関係を後戻りさせぬよう一層力を注いでもらいたい。
300議席を争う韓国総選挙が行われ、尹錫悦(ユンソンニョル)政権の保守系与党「国民の力」は系列政党を含め108議席で大敗した。革新系最大野党「共に民主党」と系列政党が、過半数を大幅に超える175議席を獲得した。
総選挙は、5月に任期3年目に入る尹政権の「中間評価」と位置付けられた。尹大統領は残る3年、苦しいかじ取りを迫られる。
共に民主党は、反政権で手を組む構えの革新系新党と合わせると、対決法案の迅速採決が可能な180議席以上を獲得した。国民の力の党トップや首相、大統領府高官らは一斉に辞意を表明した。
尹氏は、選挙結果を受け「国民の意思を謙虚に受け止め、国政を刷新する」と述べた。
言葉通りに、民意と向き合うことを期待したい。
与党の敗因は、頑固に原則を貫き、「対話姿勢に欠ける強権政治」との批判が出ている尹氏の統治スタイルにあると指摘される。
尹氏の家族の不正疑惑や身びいきな人事のほか、食料品の高騰などで国民に不満が高まっていたにもかかわらず、改善策を示せなかったこともあるだろう。
非難合戦に終始し、政策論争が深まらなかったことは残念だ。
心配なのは、日本への影響だ。直ちに外交政策が変わることはないとみられるが、尹氏の対日政策に韓国国内の批判は根強い。共に民主党の李在明(イジェミョン)代表は、日韓の歴史問題に対する尹氏の姿勢を強く批判してきた。
日本に過去の清算を求める市民団体や野党の批判が、これまで以上に高まると予想される。
与党内で尹氏と距離を置く議員が増えれば、国内の反発を抑え込む形で進めてきた対日政策は難しくなるだろう。
「戦後最悪」と言われるほど冷え込んだ日韓関係を、尹氏の大統領就任で改善へと転換した。昨年3月に、5年ぶりとなる日韓首脳会談を開き、11年以上途絶えていたシャトル外交を再開させた。
元徴用工訴訟問題を巡っては、日本企業の支払いを韓国財団が肩代わりする解決策を打ち出した。
世界文化遺産登録を目指す本県の「佐渡島(さど)の金山」には、韓国内で「朝鮮半島出身者の強制労働の場だった」と反発する声がある。登録に韓国の理解は欠かせない。
覇権主義的な動きを強める中国や核・ミサイル開発を続ける北朝鮮を抑止する観点からも、米国を含めた日韓の緊密な連携は不可欠なはずだ。