報復の連鎖が起こり、中東情勢が泥沼化する事態は断じて避けたい。必要なのは、地域の安定を図ることで、戦火を拡大させることではない。イランとイスラエルの双方に強く自制を求めたい。

 イランが13日夜(日本時間14日午前)から14日未明にかけ、弾道ミサイルや自爆型無人機で、イスラエルを大規模に攻撃した。

 シリアでイラン大使館が空爆を受け、イラン革命防衛隊の将官や民間人ら計13人が死亡した1日の攻撃に対する報復だと、イラン指導部は主張している。

 イランがイスラエルへの直接攻撃に踏み切ったのは初めてだ。中東最悪の敵対関係にある両国の対立が激化する懸念がある。

 攻撃について、イラン革命防衛隊は「自衛権の行使」だと正当化し、内容は「限定的な作戦だった」と主張した。

 イスラエル軍報道官は、イランから無人機170機、巡航ミサイル30発、弾道ミサイル120発などが発射され、その99%を迎撃したと発表した。

 迎撃でダメージを抑えたということだろうが、落下した破片により、住宅で寝ていた少女1人が負傷した。戦闘がエスカレートすれば、民間人が巻き込まれる危険性はさらに高まる。

 残念なのは、対立が先鋭化する恐れが払拭できないことだ。

 イランの最高指導者ハメネイ師は、これまで直接攻撃を見送ってきた経緯がある。しかし大使館攻撃には「われわれの領土に対する攻撃」と受け止めて激怒し、報復を国民に繰り返し誓ってきた。

 一方、イスラエル側は、報復を受け「イランの攻撃はレッドライン(越えてはならない一線)を越えた」として、報復する権利を主張している。

 国連のグテレス事務総長が関係国に最大限の自制を求めたものの、安全保障理事会の緊急会合で両国は非難の応酬を続けた。

 双方が報復を正当化しては、連鎖を断ち切ることはできない。

 イスラエルは、パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスとの戦闘を始めて半年が過ぎた。

 イランとの間で戦争に発展すれば、二正面の戦闘を強いられるだけでなく、ガザでの戦闘とは次元が違う「国対国」による地域紛争に発展しかねない。中東の緊張が格段に高まるのは明らかだ。

 先進7カ国(G7)首脳は、オンライン会議でイランへの制裁を検討した。イランと代理勢力に攻撃停止を要求した。

 一方で、イスラエルの後ろ盾である米国のバイデン大統領は、ネタニヤフ首相に、イランへの反撃に反対すると伝達したという。

 国際社会は結束し、戦闘の阻止に向けて働きかけを強めてもらいたい。人道的な危機にも直面するガザでの戦闘休止を含め、緊張緩和を急がねばならない。