ドメスティックバイオレンス(DV)被害から逃げて暮らす親子が不安を抱かずに済む制度でなくてはならない。当事者が安心できるように制度を組み立て、実効性を高める必要がある。
離婚後の共同親権を導入する民法改正案が衆院を通過し、参院で審議入りした。
改正案は、父母どちらか一方の単独親権としている現在の規定を見直し、共同親権を選べるようにする内容で、今国会での成立が見込まれている。
親権の在り方は父母が協議して決めるが、折り合えない場合は、DVや虐待の恐れが認定された場合を除き、家裁が共同親権と決定することがあり得る。
家族関係の多様化に対応し、離婚後も父母双方が養育に関われるようにする狙いがある。
見過ごせないのは、衆院の審議が進むにつれ、廃案や慎重審議を求める声が広がったことだ。
DVは身体的暴力だけでなく、精神的暴力や性的加害まで多岐にわたる上、密室の出来事のために証拠を残しにくい。
立証が難しいDV事案が、共同親権から適切に除外されるか不安に感じている被害者は多い。
衆院は与野党の修正合意で、親権の在り方を決める際に「真意を確認する措置を検討する」と付則に加えた。父母の力関係に差があり、対等に話し合えないケースを念頭に置いている。
DVや虐待の被害者らは、加害者から共同親権への合意を強制されることを警戒している。丁寧な対応が求められるのは当然だ。
気がかりなのは、家裁の体制が不十分なために、被害を見逃す恐れがあることだ。
司法統計によると、全国の家裁が2022年に受理した面会交流調停の申し立ては約1万3千件に上り、10年前より3割も増えている。一方で複雑な争いが増え、審理期間は長期化している。
日弁連の分析では、家裁調査官は23年度に約1600人で、この20年ほどで数十人しか増員されていないという。
父母の意思を丁寧に確認し、適切な判断を下すには、家裁の体制強化がなくてはならない。
共同親権では、子どもの進学や医療など重要な事項を迅速に決められず、紛争が多発する恐れがある。一方の親が単独で判断できる「急迫の事情」や「日常の行為」は分かりにくいと指摘される。
参院の審議を通じ、対策や具体例を示す必要があるはずだ。
成立すれば26年までに施行され、既に離婚した父母も単独親権から共同親権への変更を申し立てることができる。
このため、家裁への請求件数が膨らむ可能性はあるが、DV案件を1件でも見逃せば、命に関わる事態が起きかねない。家裁が慎重に見極められるか問われる。