ずさんな運航が招いた大惨事を教訓に、全国の交通事業者が再発防止と安全運航に努めねばならない。責任の所在を明らかにし、事故の風化を防ぎたい。
北海道知床半島沖で観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没し、乗客乗員26人のうち20人が死亡、6人が行方不明になった事故は23日で発生から2年となった。
出港地の斜里町ウトロ地区では、多くの人々が献花し、祈りをささげた。「私たちは、忘れません。」と掲げた追悼式で、事故を風化させないことを誓った。
運輸安全委員会が昨年9月に公表した報告書によると、観光船は船首付近のハッチが確実に閉鎖されないまま出航し、悪天候でふたが開いて浸水したことが原因で、沈没した。
運航会社は安全運航に必要な人材をそろえておらず、船体や通信設備の保守整備も不十分だった。
強風・波浪注意報が発令される中での出航判断や利益優先の姿勢といった問題が次々浮上した。
第1管区海上保安本部などは運航会社の社長を業務上過失致死の疑いで捜査しており、事故は今なお終わっていない。
多くの人命を奪った事故の責任を明らかにするのは当然だ。
ただ当時の状況を知る船長は事故で亡くなり、事実特定は難しく、立件のハードルは高いという。
報告書の内容は推論だと指摘する捜査関係者もいる。そもそも船の安全管理に一義的な責任を負うのは船長で、陸にいた社長の過失を問えるのかが焦点とみられる。
一部の乗客家族は損害賠償を求め、5月にも運航会社と社長を相手取り提訴する方針だ。
事故から2年がたつというのに、誰も責任を問われていない現状に対する憤りや無念さは想像するにあまりある。
事故を巡っては、日本小型船舶検査機構(JCI)が、事故3日前の船体検査でハッチの不具合を見抜けなかったことも明らかになり、国などの監査や検査の実効性不足が問題になった。
亡くなった甲板員の遺族は国などの責任を問い、提訴している。
事故後、国は小型旅客船の事業許可を更新制にするなど制度を見直している。
交通事業者への対応で、国は今後も実効性のある対策を考え、進めていく必要がある。
事故では運航会社が、大規模事故が起きた際に被害者支援にどう対応するかを定める「被害者等支援計画」を策定しておらず、被害者家族への対応も問題視された。
国土交通省によると、本県の事業者で計画を策定しているのは130事業者のうち7事業者と、5%にとどまる。計画は任意のため中小事業者の策定遅れが目立つ。
国には、関係機関への周知や、経営体力に乏しい事業者への支援にも努めてもらいたい。