ようやく示された独自案は踏み込み不足で、抜本的な改革につながるのか疑問だ。責任を免れる抜け道が残され、本気で改革をしようという気概が感じられない。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた政治資金規正法改正を巡り、自民が党の独自案を提示した。
岸田文雄首相が4月初めに作成を指示したにもかかわらず、自民政治刷新本部の実務者が見送っていたが、公明党や野党の猛反発を受けて態度を一転させた。
しかし案の内容は改革意欲に乏しく、今国会での規正法改正実現に重ねて意欲を示す首相の言葉が空疎に聞こえる。
案は政治資金収支報告書の提出時に、議員による内容把握と確認書の作成を義務付け、監督責任を明記した。罰則を受けた議員の公民権停止も付記した。
裏金事件では、会計責任者が在宅起訴された一方で、「知らぬ存ぜぬ」を貫いた安倍派幹部は立件されず、議員の責任に対する現行法の限界が浮き彫りになった。
確認書の義務付けは、その点を踏まえた対応なのだろう。
ただし案では、罰則適用は、会計責任者が収支報告書への不記載や虚偽記載で処罰され、議員が必要事項を確認せずに確認書を交付したケースに絞られている。
「会計責任者の処罰」と「議員の確認」という二重の縛りがある上、議員による確認の範囲が不明確で、言い逃れできる余地がある。罰則を科すハードルが高くては、実効性が疑われる。
自民案は、不記載収入があった場合に相当額を没収し、国に納付させる規定も盛り込んだ。
茂木敏充幹事長は記者会見で、悪質、意図的な不記載、虚偽記載が一定期間放置されれば没収するとしたが、悪質性や意図をどう線引きするのかはっきりしない。
問題なのは、自民案には政治資金の透明化を積極的に図ろうとする姿勢が見えないことだ。
裏金事件で焦点となった政治資金パーティーや、企業・団体献金の是非について、案は具体的な在り方に触れていない。
党幹部に支出され、使途公開が不要な政策活動費は、億円単位の巨費でありながら使途が不明なため「ブラックボックス」と呼ばれて問題視されているものの、案は透明性を課題に挙げただけだ。
調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の支出公開や、国会議員関係政治団体から「その他政治団体」への資金移動の問題も「各党と真摯(しんし)な協議を行う」とし、議論を主導する様子はない。
法改正には、公明党や立憲民主党などが、会計責任者だけでなく議員本人も連帯責任を負う「連座制」導入を主張している。
再発防止に厳しい対応が必要なことは論をまたない。自民は襟を正して法改正に臨むべきだ。