円安が急進し、海外市場で一時1ドル=160円台に達した。行き過ぎた円安は物価や経済、暮らしに与える影響が大きく、今後の動向が気がかりだ。

 週明け29日の外国為替市場で円が対ドルで急落した。その後、政府・日銀が為替介入に踏み切ったとの見方から154円台後半まで反発したが、160円台は1990年4月以来の水準となる。

 30日は156円台を軸に、神経質な値動きとなった。

 急落した29日は祝日で、東京市場が休場だった。市場参加者が少ない日に、投機筋が幅広く円売りを仕掛けたとみられる。

 政府は介入の有無について明らかにしていないが、財務省で為替政策をする財務官は30日、「過度な相場変動が投機によって発生してしまうと国民生活に悪影響を与える」と述べた。

 円安は、輸出企業に有利に働く半面、輸入物価の上昇などで国内物価を押し上げ、消費生活を圧迫する。政府・日銀が警戒感を強めるのは当然だ。

 急落の背景には、日銀が25、26日の金融政策決定会合で緩和政策を維持したことや、植田和男総裁が記者会見で円安を「基調的な物価上昇率に大きな影響は与えていない」と発言したことがある。

 円安をけん制し、政府・財務省が「口先介入」を重ねていたタイミングで、円安を容認するかのような総裁の発言は間が悪い。

 日本の追加利上げがないとの観測が広がった一方、インフレ圧力が根強い米国では、連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ開始が遅れるとの見方があり、日米金利差を意識した流れが強まった。

 急落した円がその日のうちに押し戻されたことで、市場参加者に心理的天井ができ、短期的には一辺倒に円安が進むことはないだろうとみるエコノミストもいる。

 ただ、円安是正には米国の利下げが大きく絡んでおり、米国の動向は無視できない。

 FRBは1日まで金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)を開く予定で、利下げに慎重姿勢が示されれば、円安が再加速する恐れがある。

 3日に発表される4月の米雇用統計にも注意が必要だ。

 ドルは円だけでなく、韓国のウォンやブラジルのレアルに対しても値上がりしている。

 日米韓は4月の財務相会合で、円安やウォン安に関する日韓の深刻な懸念を共同声明で初めて表し、過度な変動をけん制した。

 新興国ではドル高が進み、ドル建て債務の返済が膨らむことが懸念されている。経済成長を支える投資資金が流出し、景気が落ち込めば、世界経済に影響する。

 ドル高による不安定な経済状況は当面続くとみるべきだろう。政府・日銀には、国際社会との連携強化が求められる。