人生100年時代ともいわれる超高齢化社会は、認知症の人が増加する問題をはらんでいる。認知症への偏見をなくし、当事者と共生していく姿勢が欠かせない。

 政府が、認知症の高齢者数の推計を公表した。2025年は471万人が見込まれ、60年には645万人と高齢者の5・6人に1人を占める。

 15年に公表した前回の推計では、25年に675万人、60年に850万人としていた。それぞれ約200万人減少した格好だ。

 厚生労働省の研究班は、減少の要因には、喫煙率の低下や、食事などの生活習慣の改善が進んだことがあるとみる。健康意識が高まり、認知症の発症リスク低減につながったといえるだろう。

 政府は今回、認知症の予備軍である軽度認知障害(MCI)の高齢者数の推計も初めて公表した。25年は564万人で、60年は632万人になるとした。

 MCIから認知症に進展する割合が低下するとみられるが、将来、認知症やMCIの人の増加が止まるわけではない。認知症とMCIの人の合計は60年には1277万人で、高齢者の2・8人に1人に当たる高い割合だ。

 年代や職種を問わず、誰もがわがこととして認知症の問題を考える必要がある。

 社会に認知症への偏見があれば、認知症になった時に暮らしづらくなり、地域の人々とも疎遠になりかねない。

 本人の意思を尊重し、できる限り住み慣れた地域で暮らし続けられるようにすることは大事だ。周囲には、認知症の人が外で働くことなどに難色を示すことなく、温かく見守る姿勢が求められる。

 本人や家族を孤立させぬためには相談の場があることも大切だ。

 差別や偏見がなく、共に助け合える地域づくりの意義を、改めて確認したい。

 認知症基本法が1月に施行された。認知症の人が尊厳を持って暮らせる共生社会の実現が目的で、国は秋をめどに認知症対策の「基本計画」を策定する。

 全国より早く高齢化が進む本県はとりわけ、認知症対策が重要だ。基本計画完成後、県独自の「推進計画」を作るという。

 本人や家族らの声を反映し、地域の実情に合った、血の通った内容にしてほしい。

 アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」の実用化が始まった。アルツハイマー病による軽度の認知症とMCIの人が対象となる。投与には早期の受診が不可欠だ。

 期待は高いものの、課題は多い。投与できる医療機関が限られる上、症状の進行を抑制するが、根治はしない。薬価は一般市民にとっては高額だ。

 産官学は連携し、投与しやすく、効果の高い次世代治療薬の研究開発を急いでもらいたい。