日常生活は平時に戻りつつあるが、感染の波は続いている。命を落としたり、後遺症で苦しんだりする人も多くいる。
警戒を続けるとともに、これまでの知見を生かした万全の対策を構築したい。
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行し1年が過ぎた。厚生労働省によると、5類になった昨年5月以降、11月までに計1万6043人が新型ウイルスで死亡している。
同じく5類に位置付けられる季節性インフルエンザの死者数は、新型ウイルスの感染対策の影響を受けていない2019年でも年間約3600人で、死者数は新型ウイルスが圧倒的に多い。
油断ならない感染症であることを忘れてはならない。
気がかりなのは、流行が依然として繰り返されていることだ。
昨年夏から秋にかけて流行「第9波」となり、冬には「第10波」が到来した。沖縄県では医療が逼迫(ひっぱく)し、救急搬送を受け入れられない事態が生じた。
現時点の感染状況は落ち着いているが、いつまた流行の波がくるか分からない。
政府は、重症化率や入院後の死亡率といった感染実態が分かる情報をこまめに発信してもらいたい。私たちも状況に応じ、体調が悪い時は外出を控えるなど基本的な対策を徹底したい。
後遺症は深刻で、世界保健機関によると、感染者の10~20%で発症し、200種類以上もの症状が報告されている。
特効薬もない状況だ。激しい疲労感や脱力感に襲われて、長期間にわたり日常生活が困難になった人や、寝たきりになった患者もいる。一刻も早く治療法の確立が求められる。
新型ウイルスに関する医療費の公費負担は3月末で終了し、4月から通常医療体制になった。受診控えや高額な薬を諦めることが懸念される。
無料だったワクチン接種は、65歳以上の高齢者らを対象に秋から冬にかけ年1回の定期接種に移行した。厚労省は自己負担が最大7千円程度になるよう助成する。
政府は来月、重大な感染症へ対応する「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を、約10年ぶりに抜本改定し、閣議決定する。
新型ウイルスの対応を巡っては重症者が入院できず自宅療養せざるを得ない状況や、自宅や療養施設で死亡するケースも頻発した。
改定案ではこの苦い教訓を生かし、流行初期段階でも、医療体制の逼迫の恐れがあれば緊急事態宣言などの「強度の高い措置」を講じる。都道府県と医療機関があらかじめ協定を結び、流行期に医療を提供できる体制を整備する。
新たな感染症が流行しても、混乱を来さぬよう、実効性ある備えを充実しておきたい。