選挙運動の自由は認められなければならないが、何をしてもいいわけではない。有権者が演説を聴く機会を奪うような行為は、民主主義の根幹である選挙を揺るがし、許されることではない。
4月の衆院東京15区補欠選挙で別陣営の街頭活動を妨害したとして、警視庁は公選法違反(自由妨害)の疑いで、政治団体「つばさの党」の事務所や、関係者の自宅などを家宅捜索した。
候補者を出した陣営が、他陣営への選挙妨害の疑いで強制捜査を受けるのは異例だ。
団体の代表や落選した元候補らは、補選の告示日から過激な行為を重ね、別の無所属候補の演説会場で電話ボックスに登って大音響で叫んだり、車のクラクションを鳴らしたりした。無所属候補の演説はかき消された。
警視庁は、この行為が公選法に抵触するとして警告を出したが、代表はその後も「選挙運動の一環」として違法性を否定し、立憲民主党や日本維新の会などの候補にも同様の行為を続けた。
街宣カーを車で追いかけて交通を妨げることもあり、各陣営は街頭演説の事前告知をやめたり、会場変更したりした。
代表らは一連の行為を動画撮影し、投稿サイト「ユーチューブ」に配信した。過激な言動を重ねたのは注目を集める狙いがあったとみられるが、候補者らを萎縮させ、一線を越えた行為といえる。
公選法は、聴衆が演説を聴き取ることができなくなるような行為を選挙の自由妨害罪に当たると規定している。
集会や演説を妨害した場合、4年以下の懲役か禁錮、100万円以下の罰金を科す。
今回、速やかな摘発を求める声もあったが、候補者側による行為のため、警察は選挙期間中は見送った。「公権力による選挙運動への介入」との批判が出るのを恐れたとみられる。
憲法21条が保障する表現の自由にも大きく関わり、選挙妨害かどうかの色分けが容易ではないこともあるだろう。
補選後、維新は「選挙の自由妨害罪」を適用しやすいよう具体的な妨害行為を明記した公選法改正案の概要を発表した。国民民主党も法改正を訴えている。
ただ、安易に法改正による規制強化に進めば、言論の萎縮を招きかねない。まずは現行法の範囲で、対応を考えるべきだ。
2019年の参院選で当時の安倍晋三首相の街頭演説中にやじを飛ばした2人を北海道警が排除した。現在も損害賠償請求を巡る裁判が続いている。
自由な雰囲気の政治活動まで規制され、表現の自由が脅かされる状況になるようでは本末転倒だ。
公正で自由な選挙を守るために、どんな対応ができるか議論を尽くす必要がある。