貿易摩擦が強まり、対立が深まる恐れがある。世界経済に与える影響も懸念される。選挙目当ての内向きな保護主義合戦は控え、混乱する世界の安定にこそ力を尽くしてもらいたい。
バイデン米政権が、中国製品への制裁関税を強化すると発表した。中国製の電気自動車(EV)の税率を2024年内に現行の4倍の100%に引き上げるほか、半導体は25年までに現行の25%から50%に強化する。
さらに特定の鉄鋼とアルミニウムは24年内に現行の0~7・5%を25%に引き上げ、EV向けリチウムイオン電池は24年内に現行7・5%を25%に上げる。いずれも大幅な引き上げだ。
バイデン政権はかねて、中国政府の巨額の補助金による過剰生産能力が不当廉売(ダンピング)を引き起こしているとして、問題視してきた。
バイデン大統領はホワイトハウスでの演説で、「(中国産の)不当に安価な製品が世界中の製造業を廃業に追い込んでいる」と述べ、米国の産業と雇用を守るための制裁強化の正当性を訴えた。
巨額の補助金で公正な競争をゆがめているとしたら問題だ。世界経済を混乱させるような過剰生産は是正されなければならない。
ただ気になるのは、バイデン氏の強硬路線が、トランプ前大統領との再対決が見込まれる11月の大統領選対策とみられることだ。
米国第一主義を掲げるトランプ氏は大統領時代、中国製品への関税強化を繰り返した。中国も米国製品の関税引き上げで応酬し、深刻な貿易摩擦が生じた。
トランプ氏は返り咲けば、中国からの輸入品に一律60%の関税を課すと表明している。
苦戦を強いられているといわれるバイデン氏としては、トランプ氏以上の強硬姿勢を示す必要があり、今回の制裁関税強化につながったと指摘されている。
対中関税引き上げは、米国企業にとって中国製品の調達コストの上昇につながりかねず、打撃を受ける恐れがある。
供給網が混乱すれば日本企業にも影響が及び、さらには世界経済がダメージを受ける可能性も否定できない。
保護主義が過ぎれば、巡り巡って米国経済に悪影響を与える可能性があることを十分に考慮する必要があるだろう。
中国商務省は、米国の制裁強化に「断固反対する」として即時撤廃を求め、対抗策の発動も示唆した。「産業発展を促す補助金政策は世界各国が採用している」とも訴えている。
貿易摩擦は世界貿易機関(WTO)で解決するのが本来の姿だ。
ウクライナやパレスチナの戦火がやまない中、米中貿易戦争の激化で世界に一層の混迷を招くような事態は避けなければならない。