平和的共存のため、台湾新総統は中国との対話実現へ努力してもらいたい。日本は、台湾海峡の緊張緩和につながるよう、中国に対し働きかけを強めねばならない。
1月の台湾総統選で当選した民主進歩党(民進党)の頼清徳主席が20日、総統に就任した。頼総統は、2期8年務めた同党の蔡英文前総統の統一も独立も求めない「現状維持」路線を踏襲する。
頼氏は就任演説で、中国に対し武力による威嚇の停止を求め「共に台湾海峡と地域の平和と安定の維持に力を尽くそう」と呼びかけた。対話と交流も求めた。
台湾統一を目指す中国の習近平指導部は、蔡政権との対話を一切拒否し交流が途絶えていただけに、対応が注目される。
中国はこれまで、頼氏を独立派とみなし、個人攻撃を行ってきた。対中融和路線をとる最大野党の国民党を通じた台湾世論の分断も強めている。
台湾製品への関税優遇措置の停止拡大なども検討し、経済的にも揺さぶりを続けるとされる。
軍事的圧力も強めている。新型空母の初の試験航行を実施し、空母3隻体制の構築を急ピッチで進めている。台湾有事の際に米軍の接近を阻止するためとみられる。
今月15日には、軍用機延べ45機が台湾周辺で活動した。台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線を越えたり、台湾の防空識別圏に侵入したりした機もあった。
今後も軍事演習などで圧力を加えることが予想され、偶発的な衝突リスクも懸念される。
頼氏は日本や米国など民主主義国との連携を重視している。台湾海峡安定に向け、日本の果たすべき役割は大きい。
来週には4年半ぶりに日中韓首脳会談が開催される見込みだ。岸田文雄首相は、中国に対し台湾への軍事的圧力をかけぬよう強く訴えねばならない。
頼氏には、内政面でも厳しい政権運営が待ち受ける。立法院(国会)で、民進党が過半数を割っているからだ。
2月に始まった立法院の審議では、与野党が対立する場面が目立つ。立法院改革を巡る法案の採決で、与野党の議員が衝突し6人が負傷するなどした。
頼氏は就任演説で、与野党は「協力の信念を持つべきだ」とし協調を訴えた。台湾内部の団結をどう図るか、手腕が問われる。
日本との関係は、親日的な蔡政権の8年間に、大きく発展したと、日本の外務省はみている。
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に工場を新設したのは、良好な関係の象徴だ。能登半島地震と台湾地震の際には、義援金を贈りあい、被災者に思いを寄せた。
頼氏は台南市長時代から積極的に日本と関わってきた。幅広く連携や交流を深めていきたい。