困窮度合いに関わりなく給付金を支給するのでは、夏の参院選目当ての「ばらまき」と批判されても仕方がない。
年金生活者だけを対象とする理由も分かりにくい。ウイルス禍で困っている現役世代もおり、本当に必要な人たちに支援が届くように立ち止まって考え直すべきだ。
政府、与党は感染拡大の影響で受給額が減る年金生活者らを支援するため、「臨時特別給付金」を創設し、1人当たり5千円を支給する検討に入った。
1回限りで、住民税非課税世帯などへの給付金を受給していない高齢者らが対象になる。財源は2021年度の予備費から充てる方向で調整する。
与党幹部によれば、支給対象は約2600万人となり、事業規模は事務経費を含め2千億円程度に上るという。
年金支給額は物価と賃金が両方下がった場合、物価に基づいて改定されていた。
21年度改定から物価より賃金の方のマイナスが大きければ、賃金下落を改定額に反映する仕組みになった。
賃金が下がっているのに、年金額を増やせば、保険料を払って制度を支える現役世代の負担が重くなるからだという。
今回浮上した給付金は、4月から年金支給額が0・4%引き下げられることを受けた措置として穴埋め的に検討される。
与党は「現役世代の賃金低下は、政権による賃上げの取り組みで緩和できる」とする一方、年金受給者には恩恵が及びにくいと給付金の正当性を訴える。
しかし、これまでの経緯を見れば、仕組みを改定した与党が穴埋めを進めるのは、整合性を欠いていないか。
政府はガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」発動も視野に入れた制度の修正など、燃油価格高騰を踏まえた経済対策を取りまとめる。
給付金はこうした対策が検討される中で浮上、自民と公明両党の幹部が首相に申し入れていた。だが、唐突感は否めない。
しかも引き下げられる4、5月分の年金受け取りは6月に当たるため、7月に見込まれる参院選対策の印象が強い。
自民党幹部は「物価が高騰する中での年金減額は選挙に大打撃」として選挙対策だと認めている。こんなことが許されるわけがない。候補の相互推薦問題でぎくしゃくした自公の結束をアピールする手段にも見える。
直近の共同通信世論調査では支給案について「適切だとは思わない」が66%を占め、有権者が厳しい目を向けている実態が浮き彫りになった。政府、与党は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
予備費支出には3月中の閣議決定が必要になり、議論の時間は限られる。駆け込み的に事業が実行されるようでは困る。
岸田文雄首相は「経済や生活の状況全体を見る中で、必要かどうか検討していきたい」と述べている。
給付策を検討するなら真に、困窮する国民のためになるものにしなければならない。