横並びを重視し、健全な競争環境には程遠い実態がまたも浮かび上がった。顧客の個人情報を軽視した行為が常態化していた。損害保険業界のあしき体質を抜本的に改めねばならない。

 損害保険大手4社は、自動車保険加入者の氏名や契約情報などが代理店を通じて競合他社にメールで漏えいしていたと発表した。

 大手4社は東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険だ。

 損保複数社の商品を扱う「乗合代理店」が、満期が近い加入者の更新漏れ防止などの目的で自動車ディーラーらにメールを送る際、本来は顧客が契約した損保会社と個別にやりとりすべき契約情報を複数社にまとめて送っていた。

 漏えいした情報には、証券番号や保険の種類、契約の満期、保険料なども含まれ、4社は事実上、顧客に無断で保険加入者に関する情報を共有していた。個人情報保護法に抵触する可能性がある。

 情報の不正使用は確認されていないものの、競合他社が新規顧客を獲得したといった情報を、自社の営業活動の参考にすることも可能な状況だった。

 背景には、代理店が個別に連絡する手間を省くため、各社へ一斉メールを送る習慣が根付いたとの見方がある。

 問題なのは、損保各社は競合他社の情報を受け取っていたことを認識しながら、代理店への指導を怠っていたことだ。

 代理店には、大手自動車販売店など、100を超える店舗網を持つ企業もある。損保各社にとっては極めて重要な取引先である。

 有識者からは、大規模代理店の存在感が強く、管理する側の損保各社と代理店の力関係が逆転しているといった指摘もある。

 とはいえ、情報漏えいに目をつぶっていたことは、顧客軽視の業界体質と言われても仕方がない。

 損保各社には、慎重に扱うべき情報の管理に向けて、代理店との適切な関係を再構築していく努力が改めて求められる。

 損保業界を巡っては昨年、企業保険のカルテルや中古車販売ビッグモーターの保険金不正請求などの不祥事が相次いで発覚し、信頼回復の途上にあった。

 金融庁は、今年3月に業界改革を議論する有識者会議を設置し、代理店の管理体制などの検討を進めている。6月にも報告書をまとめる方向で、監督指針や保険業法の改正に踏み切る可能性もある。

 しかし、今月は情報漏えいのほかに、企業や団体の従業員が加入できる「団体扱保険」で、大手4社が保険料を事前に調整をしていた疑いも浮上している。

 次から次へと不祥事が発覚し、業界の抱える問題の根は深い。顧客の信頼を取り戻すために、徹底的にうみを出し切る必要がある。