○○は私が育てた-。こんな言い回しを耳にすることがある。さほど関わりがなくても、さも自身に功績があるかのように冗談めかして使うことが多いような気がする。でも今回は胸を張っていいだろう。「大の里は新潟が育てた」

▼相撲が盛んな石川県津幡町に生まれたが、小学校卒業後は親元を離れ、たった1人で新潟に渡った。糸魚川市の能生中と海洋高が一緒に稽古する様子を見学し「ここなら強くなれる」と直感したという

▼決断は親にも周囲にも反対された。それだけに「中途半端に帰ることはできなかった」と歯を食いしばり鍛錬を重ねた。海洋高では全国高校総体で準優勝し、本県での6年間で力士としての土台を築いた。「365日、相撲に集中できる環境があったから今がある」。大相撲の二所ノ関部屋に入門が決まった際は同高で記者会見し、こう語っていた

▼糸魚川では人間としての幅も広げた。高校時代は地元特産のカニの販売を手伝ったこともあるという。「甲羅を触るだけで、カニみそが詰まっているものが分かる」と、意外な特技を持つ。大学4年時には、母校で教育実習をした

▼新潟が育てた大器が、大相撲夏場所で頂点に立った。初土俵からわずか7場所での優勝は最速記録だ。ともに能登半島地震で被災した石川、新潟両県の人々に大きな喜びをもたらした

▼しこ名は、大正から昭和初期に活躍し「相撲の神様」と呼ばれた大ノ里にあやかった。たゆまず、おごらず、名力士へと電車道で歩んでほしい。

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