同性婚を巡る国の議論が一向に進まない中、自治体側が風穴を開けた形だ。法整備へ向けた動きにつながるか、注視したい。
長崎県大村市が、男性カップル世帯の住民票で、世帯主と同居するパートナーの続柄欄に事実婚関係であることを示す「夫(未届)」と記載して交付した。
住民票の続柄は、同性パートナーは「同居人」「縁故者」などの記載が一般的で、同性婚を認めていない日本では異例の措置だ。
市は昨年、性的少数者のカップルを公的に認めるパートナーシップ宣誓制度を導入した。2人は制度に登録しており、市は希望を踏まえ協議し、2人の関係を「内縁の夫婦に準ずる」とした。
同性カップルに寄り添った画期的な判断といえる。
住民票への記載という公的な書類は証明力がある。同性カップルにとって、大きな励みになったことは間違いないだろう。
住民票の作成や交付は自治事務で、市の裁量で決められる。
パートナーシップ制度を導入している自治体は多く、性的少数者の権利を守る手法として、他の自治体にも広がる可能性がある。
ただ、事実婚と同様の権利が認められたとは言明できない。
市長は「一般的な事実婚と同様という認識はない」と述べ、事実婚の異性カップルと同様に権利を保護するかは、行政機関などが個別に判断するとの考えを示した。
雇用保険法に基づき、このカップルが申請した就労目的の移転費支給を、厚生労働省が、同性パートナー分は該当しないとして、除外していたことが分かった。
一つずつ交渉していかねばならない現実がうかがえる。法的拘束力のないパートナーシップ制度だけでは不十分で、同性婚を認めねば、格差は完全にはなくならないといわれるのは、そのためだ。
札幌高裁は3月、同性婚を認めない法律の規定を憲法違反と判断した。地裁レベルでも違憲や違憲状態の判決が相次いでいる。
「犯罪被害者給付金」についても、最高裁が、支給対象に同性パートナーも該当し得るとの初判断を示した。性的少数者が社会的な不利益を被る現状を看過できないためだろう。
海外では欧米を中心に同性婚を容認する動きが進んでいる。先進7カ国(G7)で認めていないのは日本だけだ。
共同通信社の3~4月の世論調査では、同性婚を「認める方がよい」とした人は73%だった。
にもかかわらず、議論が停滞している背景には、伝統的な家族観を重視する保守層に反対論が根強いことがある。
制度を変えねば社会の変化に対応できず、市の対応は一石を投じた。多様な生き方を認める寛容な社会になるため、国会は早急に議論を始めるべきだ。