被害者たちの切実な思いを環境省は真剣に受け止めてほしい。苦しんでいる人らの声をくみ取り、救済の道を開かねばならない。
新潟水俣病の公式確認から59年となった31日、新潟市で県主催の式典が開かれた。国定勇人環境政務官(衆院比例北陸信越)が出席し、式典後、被害者や関係団体と懇談した。
懇談では、被害者らが「一日も早い政治解決を求めている」などと強く訴え、国の認定制度の見直しを求めた。国定氏は「対話を重ね、何ができるのかを考えていきたい」と述べるにとどめた。
熊本県水俣市で5月1日に開かれた懇談では、被害者が話している途中で、環境省職員がマイクを遮断した。国の対応が注目された中で、今回は被害者らの発言時間が十分に確保された。真摯(しんし)に耳を傾けるのは当然の姿勢だ。
ただ、国定氏から踏み込んだ発言はなく、被害者側は物足りなさを覚えたに違いない。
そもそも被害者側は、伊藤信太郎環境相との懇談を希望したものの、国会会期中であるとして実現しなかった。
伊藤氏は別の機会に懇談の場を持つ意向を示している。被害者側の声に直接触れる機会を早く設けてもらいたい。
水俣市での対応を巡っては、環境省は「話を聞く気がない」と非難され、後日、伊藤氏が再訪して謝罪した。
環境省の前身である環境庁は1971年、公害防止などを目的に発足した。水俣病は公害問題の原点にもかかわらず、被害者らに寄り添ってきたとは言い難く、水俣病問題を軽視していると批判されても仕方がない。
肝心なのは被害者の心からの訴えを、救済に反映させることだ。
昨年の大阪地裁や今年の熊本、新潟両地裁の判決では、国の認定基準で水俣病と認定されなかった原告が、水俣病と認められた。制度の不備は明白になっている。
しかし、新潟地裁の判決後、伊藤氏は「現行法の丁寧な運用に努める」とし、救済制度の見直しに否定的な見解を述べた。
マイク遮断問題を受け、省内横断的な水俣病タスクフォースを設置すると発表したが、救済策を検討する組織ではないとした。
これでは、水俣病問題の実態に向き合っているとは言えない。被害者らが望んでいるのは、全員が救済されることだ。
被害者らは高齢化している。恒久的に救済できる制度設計を急がねばならない。
花角英世知事は懇談には出席せず、改めて意見を聞く場を設ける意向だ。かねて国の制度の抜本的な見直しを要望している。
知事は被害者の訴えをしっかりと聞き、その思いを国へ届け、全面解決に向けて、一層尽力してもらいたい。