上場企業の業績が好調に推移している。ただ家計は物価高で苦しいままだ。企業は利益をためこむのではなく、従業員への還元に努めてほしい。同時に、将来の成長につながる投資も必要になる。
東京証券取引所に上場する企業の2024年3月期決算がほぼ出そろった。SMBC日興証券の集計では、純利益の合計額は前期比約16%増の約45兆円で、3年連続で過去最高になる見通しだ。
追い風となったのは円安だ。輸出を手がける製造業のほか、訪日客の回復などで非製造業も多くが業績を向上させた。
トヨタ自動車は営業利益、純利益がともに約2倍で過去最高となった。ANAホールディングスや、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドなども過去最高の純利益を計上した。
県内の上場企業も好決算が目立った。銀行を除いた2、3月期決算企業26社のうち、6割超の16社が純損益で増益を確保した。
建機製造の北越工業は北米の需要などを取り込み過去最高の純利益を上げ、車載用計器製造の日本精機は純利益が約4倍になった。
亀田製菓や植木組、新潟交通、スーパーのアクシアルリテイリングなども好調だった。
円安のほかに値上げ効果などもあって国内企業の業績は上向いたが、問題はその果実が家計に十分及んでいないことだ。
実質賃金は今年3月まで24カ月連続マイナスで、過去最長を記録した。円安による物価高騰に賃金上昇が追い付いていない。
24年春闘では、経団連に加盟する大企業の賃上げ率は5・58%に達したが、中小企業への波及は弱い。連合の直近の集計によると全体では5・17%だったものの、組合員300人未満の中小企業に限ると4・66%にとどまった。
働き手の7割近くを占める中小企業に賃上げが広がらなければ、物価と賃金が同時に上がる好循環の実現は困難だ。今月から電気料金が上がるなど、物価高はさらに進む懸念もある。
好業績を上げた大企業には、取引先である中小企業の人件費を含めたコスト高をしっかりと受け入れ、取引価格に反映させる姿勢が求められる。
大企業と中小企業の賃金格差の拡大は、大企業の多い大都市と中小企業の多い地方との地域格差の拡大に直結しかねない。県内の経営者にも賃上げの重要性を十分に考えてもらいたい。
国内企業の内部留保は増え続け、555兆円に上る。好環境にある企業が今、検討すべきは次の成長につながる戦略的な投資だ。
脱炭素やIT社会、人口減少など時代の流れを読みながら自社の成長戦略を描き、必要な設備投資や研究開発投資を着実に進める。それが日本経済、県内経済の底上げにつながるはずだ。