健康と命に関わる問題だ。消費者の安全安心を第一に考えた制度になるのか。届け出制の是非を含めて、今後も議論を深めていく必要がある。

 小林製薬の「紅こうじ」サプリメントによる健康被害の問題を受け、政府が機能性表示食品に関する対応方針をまとめた。

 新たな方針では、健康被害の疑いがあると医師が判断した情報を把握した事業者に、因果関係が不明な段階でも速やかに消費者庁などへ知らせるよう義務付ける。

 守らない場合、機能性表示を行わないよう指示・命令し、営業禁止や停止の措置ができる。

 健康被害の情報提供を法的義務とし、行政の関与を強めたことが特徴だ。小林製薬が、医師からの連絡で健康被害を把握しながらも2カ月以上、公表しなかったことが念頭にある。

 「因果関係を調べていた」と小林製薬は釈明するが、その間も消費者は摂取し続けた。速やかに公表していたら関連が疑われる死者5人、入院280人超という被害拡大を防げた可能性もある。

 因果関係が不明であろうと、使用中止を早急に呼び掛けるのは本来、事業者として当然だ。

 被害情報は国だけでなく、消費者にも迅速に周知できるようにしなければならない。

 紅こうじ原料を製造していた工場は、品質と衛生管理に関する基準「GMP(適正製造規範)」の認証を取得していなかった。

 新方針で、サプリ製造について、これまでは努力義務だったGMP認証取得を義務付けたことは、妥当だろう。消費者庁が立ち入り検査できるようにもした。

 気がかりなのは、根本的な問題である届け出制が残ったことだ。

 届け出制は、国の審査がなく、効果を表示し販売できる仕組みだ。消費者庁に届け出を拒絶する権限はない。広告が規制されておらず、医薬品同様の効果をうたう製品も出ているとの指摘がある。

 今回、健康被害の原因物質が工場での異物流入で発生した可能性が高まると、議論の焦点は、機能性関与成分ではなく「個別企業の製造管理」になっていった。

 届け出制は安倍政権下の2015年に成長戦略の目玉として始まった経緯があり、今回の議論では当初から制度自体に反対の選択肢はなかったという関係者もいる。

 以前から「規制緩和が先行している」といった疑問の声が上がっており、「世界一緩い制度」との批判や廃止を求める意見もある。

 混同されがちな「特定保健用食品(トクホ)」制度は1991年に導入され、国による審査がある。政府内でも、機能性表示食品については「トクホとは安全性が違う」との見方がある。

 政府は今後、方針に基づき食品表示基準などの改正を図る。消費者目線での対応を求めたい。