人質救出のためとはいえ、多くの民間人の命までを奪っていいはずがない。イスラエルは武力ではなく、停戦交渉を通じた人質解放に力を入れねばならない。
国連安全保障理事会は、戦闘終結に向けた決議案を採択し、停戦への圧力を強めた。イスラエルとイスラム組織ハマスは、重く受け止め、停戦に向け動くべきだ。
パレスチナ自治区ガザで続くイスラエルとハマスの戦闘で、イスラエル軍はガザ中部ヌセイラトで人質4人を奪還した。軍の作戦での救出は2月以来で、救出された人質は計7人となった。イスラエル側は歓喜に沸いた。
一方、ガザ保健当局は、この作戦で住民ら274人が死亡、698人が負傷したと発表した。死者のうち子どもは64人、女性が57人で、民間人の犠牲が大きい。
イスラエルメディアによると、軍は周囲に多数の民間人がいる中で作戦を実行した。あまりにも無謀なやり方だ。
ハマスは、残虐な犯罪行為だとの声明を出した。イスラエルとハマスの間接交渉を仲介するエジプトや、ヨルダンがイスラエルを非難するなど、アラブ諸国に反発が広がっている。
しかし、イスラエルのネタニヤフ首相は、「全員帰還までどんな手段でも使う」としており、惨劇が繰り返されかねない。
イスラエル軍は今月に入って、多数の避難民が身を寄せていた学校を空爆し、子どもや女性を含む40人が亡くなった。学校は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営していた。
一向にやまない、無差別といえるイスラエル軍の非道な攻撃を止めねばならない。
注目したいのは、国連安保理が10日、イスラエルとハマス双方に、バイデン米大統領が5月末に公表した新たな「包括停戦案」を受け入れ、履行を求める決議案を採択したことだ。
バイデン氏は停戦案を、永続的な停戦と全ての人質解放に向けた3段階の案だと説明していた。
安保理ではこれまで、戦闘の一時的な休止や停戦を求める決議案の採択はあるが、戦闘終結を含む包括停戦案は初めてだ。
ハマスは採択を受け入れると、表明した。
イスラエルも停戦案を受け入れたとされるが、連立政権に加わる極右政党が反対している。ネタニヤフ氏が停戦案を受け入れれば、政権を離脱すると警告している。
さらに、前国防相が、党首を務める中道政党とともに戦時内閣を離脱したことで、極右政党の影響力増大が必至となった。そうなれば、停戦への道のりがますます遠くなる恐れがあるだろう。
ネタニヤフ氏は、国内の政治的な思惑よりも、ガザでの流血を一刻も早く止めることを第一に考えてもらいたい。