人口減少を見据えた長期の経済成長率に目安が示された。しかし、それをどう実現させるかといった道筋は曖昧で、踏み込んだ議論が足りない。
政府は、経済財政運営の指針「骨太方針」案を発表した。
ポイントは、人口減少が加速する2030年代以降でも、財政や社会保障を持続させるため、実質国内総生産(GDP)の成長率が1%を安定して上回る経済をあるべき姿として示したことだ。
実現に向けて、成長分野に人材や資金を集中して企業の生産性を高め、高齢者や女性の就労環境を改善させるとした。
政府が元来、2%としてきた成長の目標を、実質1%超に設定した点は注目される。
人口減少が成長率を押し下げることを踏まえ、現実的な目標を据えたといえる。楽観的な見通しに頼らなかったことは評価できる。
だが、1%超の実現に向けて求められる出生率の大幅改善や高齢者就労の拡大に、具体的な施策を示したとは言い難い。
岸田政権で3度目の骨太方針となり、新味がなくなったこともあろうが、方針案は例年以上に総花的な印象がある。
方針案は、物価を上回る賃上げによるデフレ完全脱却を図るため「あらゆる政策を総動員する」とも強調した。
地方に多く、働き手の7割が勤める中小企業の賃上げが焦点だ。下請法の運用を厳格化し、人件費を取引価格に転嫁しやすくする取り組みを着実に進めてほしい。
残念なのは、方針案が最低賃金について、地域間格差の是正を図るとしただけで、目標の年限を示していないことだ。
最低賃金は23年度に全国平均で時給1004円と初めて千円を超えた一方、931円の本県をはじめ地方と首都圏などとの格差が依然として大きく、課題がある。
政府は目標を明確にし、解決への熱意を示してもらいたい。
議論不足は、財政健全化を巡る問題にも表れている。
方針案は、歳出歳入から借金に当たる国債を除いた基礎的財政収支(プライマリーバランス)を、25年度に黒字化するという現行目標を堅持したが、26年度以降は取り組みを後戻りさせない姿勢を示すにとどまった。
日銀が3月にマイナス金利政策を解除し、長期金利は上昇している。国債の利払い費が増え、財政悪化の懸念が高まっている。
そうした状況で、本来なら財政運営のあるべき姿に激論が交わされていいはずだが、派閥裏金事件に揺れる自民党では党内融和が優先され、積極財政派と規律派による舌戦は鳴りを潜めた。
物価高や円安、金融政策の変更で経済が不安定化し、国民に影響する中で、与党内の議論が停滞している現状には危機感を覚える。