善意で成り立つ制度の根幹を揺るがす事件だ。保護司が安全に安心して活動できるように、早急に環境を整える必要がある。
大津市の住宅で、保護司を務める60歳の男性経営者が遺体で見つかり、近所に住む35歳の無職の男が殺人の疑いで逮捕された。
容疑者は2019年に、コンビニから現金を奪ったとして強盗罪で懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を受けた。男性が保護司として担当していた。
滋賀県警によると、男性宅には来客対応をした形跡があった。自宅で保護観察の面接予定があったといい、県警は容疑者がその際に襲って殺害したとみている。
保護司は罪を犯した人の立ち直りを支える無償の民間人ボランティアだ。男性は06年から活動し、熱心で表彰歴もあったという。
対象者と向き合う中で命を奪われるとはむごく、痛ましい。
容疑者のものとみられるX(旧ツイッター)には「全然保護しない」と保護監察への不満のような投稿があった。周囲に「頑張っているのに正当な評価をされない」と伝えていたことも分かった。
保護司の男性は、容疑者に会社を紹介したが、仕事が続かないと周囲に相談していたという。事件の背景に何があったのか。県警は動機解明に全力を挙げてほしい。
保護司は、対象者の近くに住む人が担当を務めることが多いという。月2回程度、相談に応じたり就職支援をしたりしている。
事件を受け、保護司やその家族の中には、自宅での面接に不安を抱く人もいるだろう。
面接は保護司の活動拠点「更生保護サポートセンター」でもできるが、公共施設に入居しているケースが多く、利用できる時間帯や曜日などに制約もある。
自宅以外の場所の確保や、対象者と関係が悪化している場合は複数人で面接するといった対策を、国はしっかりと進めるべきだ。
法務省は全国の保護司が担っている全案件で対象者とのトラブルの有無について調査を始めた。詳しく実情を把握し、保護司の安全確保につなげねばならない。
保護司は担い手不足が深刻になっている。高齢化などが理由だ。
23年1月現在、全国で約4万7千人が活動しているが、減少傾向で、約8割が60歳以上だ。本県では現在、959人が活動している。平均年齢は66・0歳(23年12月現在)になっている。
担い手確保策を議論する法務省の有識者検討会は、中間取りまとめで、リタイア後に地域貢献を望む人ら幅広い層を取り込むため、新任を原則66歳以下に限るとした年齢制限をなくすとした。
現在は推薦制だが、公募制も試行する。無報酬を見直すかどうかの協議も続ける。
安全確保を第一に、時代に適した持続可能な制度が求められる。