どういう場合に国が強力な権限を行使するのか。納得できる説明は最後までなされなかった。乱用が広がり、地方自治を侵害する懸念は拭えない。
一方の自治体の側は「指示待ち」に陥ることなく、自立した地域運営に努めなければならない。
非常時に自治体に対する国の指示権を拡大する地方自治法改正案が18日、参院総務委員会で与党などの賛成多数で可決した。19日にも成立する見通しだ。
指示権は現状、災害対策基本法や感染症法など個別の法律に規定がある場合に行使できる。
これに対して改正案は「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」であれば、個別法に規定がなくても国が自治体に必要な対策を指示できるようにするものだ。
新型コロナウイルス禍で行政が混乱した教訓を踏まえ、国が迅速な対応をとれるようにするためだと政府は説明している。
問題は指示権の拡大が「対等・協力」を原則とする国と地方の関係を揺るがし、地方分権の流れを逆行させかねないことだが、国会審議でこうした懸念が解消されたとは言えない。
指示権を行使する具体的な事例について、松本剛明総務相は「個別法では想定されていない事態」などと繰り返した。自治体に対する強力な権限を国に付与しようというのに、具体例を示さず曖昧なままというのは理解に苦しむ。
野党は「地方分権を後退させる」「憲法で保障された地方自治を破壊する」と批判した。松本氏は「国民保護を的確、迅速に実施するための特例だ。地方分権の後退とはならない」などと答えたが、納得できる説明とは言い難い。
指示が適切だったかどうか検証するため、衆院では国会への事後報告を義務付ける修正を加えた。参院では行使を必要最小限にするよう求める付帯決議を採択した。
だが自治体との事前協議は義務化せず、国による意見聴取を努力義務とするにとどめた。乱用の歯止め策としては不十分だ。
自民党政権で国が統制を強める中央集権化の流れが強まっているように見える。指示権拡大の目的が、武力攻撃事態などを想定した集権化だとみる識者らもいる。
今後の運用について、厳しく監視していく必要がある。
指示権拡大を巡っては、地方団体に目立った反対の動きは見られなかった。本県の花角英世知事は「ニュートラル(中立)に考えている。あってもよい制度ではないかと思う」と述べている。
国の指示権拡大で、国の指示を待つ自治体の姿勢が強まりかねないという問題もある。ウイルス禍では、重要な判断を国に委ねるだけの自治体も少なくなかった。
重大な局面ほど、住民に近い立場の自治体が現場の声を拾い上げ、国に働きかける努力が要る。