日本への安全保障上の脅威がますます高まる恐れがある。政府は警戒を強め、米国や韓国など関係国と連携し、北東アジアの平和と安定に努めねばならない。
ロシアのプーチン大統領は北朝鮮の首都平壌を24年ぶりに訪れ、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と会談した。両首脳は、有事の相互支援規定を盛り込んだ「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名した。
条約には、一方が武力攻撃を受け戦争状態になった際は「遅滞なく、保有する全ての手段で軍事的、またはその他の援助を提供する」と明記した。
記者発表で金氏は「新たな高い水準の同盟関係に引き上げられた」と表明した。
ロシアのウクライナ侵攻を機に急接近したロ朝の軍事面での結びつきが、より強固になった。ソ連崩壊後に失効したが、どちらかが攻撃を受けた時に自動介入する友好協力相互援助条約の水準に戻り、事実上の軍事同盟といえる。
ロシアは長引く侵攻で弾薬不足となり、北朝鮮からの砲弾や弾道ミサイルなどの武器調達を活発化させている。北朝鮮は見返りに、軍事分野に転用できる宇宙・科学技術支援を受けているとされる。
プーチン氏は、ウクライナを支援する米欧に対抗し、結束を誇示する狙いがあるのだろうが、対立軸をつくることは地域の不安定化を引き起こしかねない。
北朝鮮は、ロシアという大国を背景に軍拡路線を突き進むことも考えられる。林芳正官房長官は「わが国を取り巻く地域の安全保障環境に与える影響の観点から、深刻に憂慮している」と述べた。
拉致問題の解決に向けても懸念される事態だ。
プーチン氏が「国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁は見直す必要がある」と主張したことも、見過ごせない。
安保理は3月、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への制裁履行を監視する「専門家パネル」の任期を、ロシアの拒否権行使により延長できなかった。
制裁状況の監視態勢が弱体化し、北朝鮮が核・ミサイル開発に必要な資金集めを活発化させるともみられる。
ロ朝の緊密化で安保理が科している制裁破りが常態化する恐れがあると、専門家は指摘している。国連の機能不全に拍車がかかることも心配だ。
朝鮮半島では、韓国と北朝鮮によるビラ散布やごみ風船、軍事境界線付近での宣伝放送といった挑発の応酬が続いている。これ以上、緊張感を高めてはならない。
注視したいのはロ朝と関係の深い中国が、プーチン氏訪朝を「主権国家間の往来だ」とし、一定の距離を保っていることだ。
日米韓は中国を取り込んで、緊張緩和への方策を模索することが求められる。