クマによる人的被害が相次いでいる。行政は適切な対策を講じる必要がある。住民は遭遇せぬよう細心の注意を払ってほしい。

 今月21日、新潟県境に近い長野県の山林で糸魚川市の男性が死亡した。クマに襲われた可能性があるという。同じ日には田上町の護摩堂山でも目撃され、町は24日午前まで入山を禁止した。

 5月末に阿賀町の男性が自宅裏の竹林でクマに襲われてけがをし、今月は新発田市の山中で襲われた男性がけがをしている。

 県は5月末にクマ出没警戒注意報を発令していた。

 専門家は、屋外でのイベントや登山などを楽しむ際、鈴を身につけたり複数人で行動したりといった自衛策が有効だと指摘する。

 降雨時はにおいが消され、音も聞こえにくく、遭遇しやすくなるという。梅雨入りした県内各地で、警戒を怠らないでもらいたい。

 県によると、本年度の県内のクマ目撃・痕跡報告数は21日現在、277件に上る。4、5月の報告数は2023年より46件多く、この5年間で最多のペースだ。

 23年度の報告件数は1450件で、22年度の約2・4倍に増えた。23年度に被害が確認された9件10人のうち5件6人は民家付近で起きた。市街地にも現れている。

 23年度のクマ被害は全国で計198件と、06年度以降で最多だった。今年もさらに被害が増える可能性があり、注意が欠かせない。

 増加の背景には、餌となるドングリの凶作や、過疎化に伴う耕作放棄地の拡大、放置果樹の増加など中山間地で人間の活動が低下していることがある。

 クマの生息域拡大に加え、子グマが親離れし、里山での密度が高まっている可能性も指摘される。

 本県などの要請を受け、環境省は4月、ツキノワグマとヒグマを指定管理鳥獣に追加した。自治体による捕獲や生息状況調査などに交付金を支給する。

 地域の実情に合わせた柔軟な対策が欠かせない。放置果樹伐採や高齢化する猟友会の支援は大切だ。ドローンを用いたクマの位置把握の強化も大事だろう。

 政府は、被害を減らすため人工知能(AI)を使ったクマの検知システムの実証事業を進める。監視カメラの映像から出没をAIで瞬時に判断する仕組みという。

 精度を高め、速やかな情報共有などに役立ててもらいたい。

 人間の生活圏に出没する「アーバンベア」への対策も重要だ。

 環境省の検討会は、市街地での銃猟を特例的に行えるようにすべきだとする。捕獲が困難な際には有効な措置だが、市街地だけに事故防止策は詰めねばならない。

 クマはイノシシなどに比べ、繁殖力が低い。過度な捕殺で個体数激減を招かぬ配慮も大切だ。野生の個体数維持など「共存」にも一層知恵を絞っていきたい。