ロシアによるウクライナ侵攻や、パレスチナ自治区ガザでの戦闘が始まってから、初の五輪を迎えようとしている。
「平和の祭典」という五輪の意義を改めてかみしめ、選手らが平和な環境の中で競技に専念できるよう、関係機関をはじめ国際社会は一層努力すべきだ。
パリ五輪開催まで26日で1カ月となった。パリ市内では本番ムードが高まっている。新型コロナウイルス禍で行われた東京五輪とは様変わりの大会になるだろう。
一方、国際情勢に翻弄(ほんろう)されてきた歴史を持つ五輪に、今回も戦争の影響が色濃く反映されていることは残念だ。
ウクライナ侵攻により、スポーツの国際大会から除外されているロシアと同盟国ベラルーシの選手について、国際オリンピック委員会(IOC)は昨年12月、個人の中立選手として出場を認めた。
ロシア、ベラルーシの国歌や国旗の使用を禁じるほか団体競技での出場は認めず、積極的に侵攻を支持する選手や軍・治安当局所属選手は対象外とした。
平和の祭典をうたう五輪で政治的理由による排除は許されないものの、両国を受け入れれば、侵攻を容認したとして国際的な批判を免れない。IOCは落としどころをひねり出したのだろう。
ウクライナは、IOCを非難し両国勢の排除を求めているが、IOCは今月15日、第1段階としてロシアから14人、ベラルーシ11人の参加を承認した。
2年以上にも及ぶ侵攻でウクライナでは、450人以上の選手やコーチが戦死し、約500のスポーツ施設が破壊された。家族や知人を亡くした選手も多い。
ウクライナ・オリンピック委員会は先月、自国選手に競技を除いた会場内外で両国選手との接触禁止や、表彰式で距離を置くことなどを求めた。
政治的事情を排して、選手間のスポーツを通じた友好の場にしなければならない五輪で、このような措置を取らざるを得なくなったことは、悲しい。
パレスチナ・オリンピック委員会も、イスラエル代表選手の中にはガザでの戦闘に加わる兵士らがいると主張し、五輪に「参加する権利はあるのか」と訴えている。
パリ五輪は「広く開かれた五輪」をスローガンに、市民参加型の新時代を象徴する祭典を目指す。競技場外のセーヌ川で実施する開会式はその典型だが、治安上問題がありテロへの懸念も広がる。
IOCのバッハ会長は、2022年の北京冬季パラリンピック後に「私たちの役割は、戦争や分断に対する反証を示すことであり、人々の分断を受容し、深めることではない」と述べた。
平和を希求する五輪精神を、いま一度考えるパリ大会にしなければならない。