正当な選挙の運営を妨げ、もてあそぶようなものだ。民主主義の根幹を揺るがしかねない。選挙を軽視し、破壊するような行いは決して許されない。

 7月7日投開票の東京都知事選は、立候補者が過去最多の56人に上っている。これまで最多だった前回2020年の22人を大幅に上回る候補者数だ。

 急増した大きな要因は、政治団体「NHKから国民を守る党」が候補を大量擁立したことだ。19人を擁立し、他に複数の関係者が諸派で立候補している。

 同団体は告示前から、24人の候補者を出馬させ、1口2万5千円の寄付で、掲示板1カ所に24枚自分の好きなポスターを張れる企画を進めた。ホームページには「ポスター掲示場をジャックせよ。」と記載していた。

 その結果、都内各地の選挙掲示板は、同一のポスターがずらりと並ぶ異常な状況となっている。

 犬の画像など選挙に無関係なものが多い。風俗店を宣伝するポスターもあり、警視庁は風営法違反の疑いで団体の立花孝志党首に警告を出した。

 掲示板の枠が不足し、一部の候補はクリアファイルで枠を増設する対応を余儀なくされた。テレビ・ラジオの政見放送が長時間に及ぶという問題も起きている。

 掲示板を売買する形だが、公職選挙法に「売買」に関する規定はない。選挙ポスターの記載内容を直接制限する規定もなく、選挙管理委員会が事前にチェックすることもない。

 専門家は「法の抜け穴を突いた売名行為」と批判する。全くその通りだ。候補者の名前や政策などを知らせるという本来の趣旨から外れていることは明らかだ。

 立花氏は掲示板をなくせば政治参加がしやすくなると主張し、今回の取り組みは「大きな問題提起」とする。しかし、こうしたやり方は有権者の反感を買うだけだ。

 都知事選の掲示板を巡っては他にも、ほぼ全裸の女性のポスターを張った陣営があり、男性候補者が警告を受けている。

 4月に行われた衆院東京15区補欠選挙では、他候補の選挙活動を妨害した疑いで政治団体「つばさの党」の代表らが逮捕された。

 選挙のありようを根本から揺るがす事態が相次いでいることに、強い危機感を抱く。良識や常識を前提に運営されてきた選挙をないがしろにするようなことが続くのであれば、選挙を巡るルールの見直しも検討せざるを得ない。

 背景に政治不信や、政治を軽視する風潮があることは間違いない。現職の政治家は今回の事態を重く受け止め、信頼回復に向け一層の努力をしなければならない。

 首都の知事選は新潟県とも無関係ではない。民主主義の根幹である選挙の大切さを再確認しつつ、動向を注視していきたい。