国民の意識や社会環境が変化する中で、制度が変わらないことによる支障が生じている。政府は提言を受け止めて早急に検討し、導入の方向性を示してほしい。

 結婚後も希望すれば生まれ持った姓を戸籍上の姓として名乗り続けられる選択的夫婦別姓制度を巡り、経団連が早期実現を求め政府に提言書を提出した。

 夫婦の姓は、婚姻時に夫か妻のいずれかの姓を選べるものの、妻が改姓することが圧倒的に多い。

 提言はその現状を「生活上の不便、不利益といった改姓による負担が女性に偏っている」と指摘し、政府に一刻も早く改正法案を提出するよう求めている。

 経団連によると、旧姓を通称で使用することを認める企業は多いが、通称は法律上の姓ではないため、契約の際や海外渡航時にトラブルになることがあるという。

 世界で夫婦同姓を義務付けている国は日本だけで、通称使用は海外で理解されにくい。ダブルネームとして不正を疑われ、説明が必要になるなど、ビジネス上のリスクにもなっている。

 経団連が会員の女性役員に行った調査では、通称使用が可能でも不便、不都合が生じるとの回答が9割近くを占めた。

 世界でグローバルに活躍する企業の実情を聞けば、選択的夫婦別姓導入の必要性は理解できる。

 提言を受け、公明党や野党からは改めて早期導入を促す意見が相次いでいる。

 一方、自民党は党内が推進派と慎重派で二分され、制度の在り方に関する作業チームを2021年に設置したものの、導入の是非を棚上げしたまま休眠状態だった。

 最近になってようやく党内の検討を進める方針が示された。

 法相の諮問機関である法制審議会が選択的夫婦別姓制度を盛り込んだ民法改正要綱案を答申し、国会に議論を促した1996年から既に28年が過ぎている。今度こそ着実に議論を進めてほしい。

 岸田文雄首相は党首討論で「ビジネス面だけでなく、さまざまな角度から議論する必要がある。世論調査でも意見が割れている」と述べるなど慎重姿勢を崩さない。「伝統的家族観の護持」を訴える保守層を意識しているのだろう。

 だが求められているのはあくまで「選択的」な制度であって、全国民に強いるものではない。

 共同通信が5月にまとめた世論調査では、選択的夫婦別姓制度に賛成との回答が76%に上り、自民支持層でも66%が賛成した。

 女性の若年層に至っては88%が賛成している。結婚による姓の変更に直面する当事者の声を重く受け止める必要があるだろう。

 姓名は、性別にかかわらず、築いてきた実績や信用、人脈といった個人のキャリアに直結する。

 男女格差を解消していく観点からも、検討されるべきだ。