自動車の中はちょっとした密室である。誰かと乗り合わせる場合、気の合う人なら楽しい時間が過ごせるが、そうでなければ、かなり気詰まりになるかもしれない
▼まさに「旅は道連れ」である。道連れとの間が最初はぎこちなくても、互いの人柄が分かるにつれて徐々に居心地がよくなることもある。濱口竜介監督の映画「ドライブ・マイ・カー」では、そんな人間模様が描かれる
▼私的な感想を付け加えれば観賞する方も物語が進むにつれスクリーンを見つめるのが心地よくなった。そんな作品が米アカデミー賞の国際長編映画賞に輝いた。日本映画の受賞は13年ぶりだ
▼実際のドライブでは同乗者のほか、流れる音楽や車窓越しの景色なども道連れのような存在だろうか。この作品には、新潟県民にとって映画を見る上での道連れと言えそうなものがいくつか登場する
▼新潟市出身の霧島れいかさんが主人公の妻を演じる。謎を残して急死する、物語の鍵となる人物だ。劇中では主な舞台の広島から北海道へと主人公らがロングドライブする。その途中、上越市や糸魚川市の風景も描かれる。主人公らは上越市のホームセンターで買い物をした
▼鑑賞した際は、そうした場面を目で追いながら「防寒着と長靴を買ったのか。寒い季節に北海道へ行くんだから必要だね」「冬タイヤへの交換はしたのかな」と心の中でつぶやいていた。親近感を覚える人や風景に引かれ、物語にどっぷり漬かった。よき道連れに恵まれた行程は、やはりいい。