人権を踏みにじった行為を厳しく断罪した判決だ。障害や病気があるという理由で、子を産み育てる権利や人間としての尊厳を、国が奪った事実はあまりにも重い。政府は、被害者全員への謝罪と補償を速やかに行わねばならない。

 なぜこうしたことが起こったかしっかり検証したい。私たちは社会に根深く残る差別や偏見の根絶へ力を注ぐことが求められる。

 旧優生保護法下で不妊手術を強いたのは憲法違反だとして、障害のある人らが国に損害賠償を求めた5訴訟の判決で、最高裁大法廷は、旧法は違憲とし、国に賠償を命じる初の統一判断を示した。

 大法廷は旧法を「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」を保障した憲法13条、法の下の平等を定めた憲法14条に反し、立法そのものが違法だとする異例の判断を下した。

 旧法は「不良な子孫の出生を防止する」との目的で1948年に制定された。96年に障害者差別に当たる条文を削除し、母体保護法に改正された。

 判決は約48年もの長期間、国が政策として障害者を差別し不妊手術を推進した結果、約2万5千人が生殖能力を失う重大な被害を受けたとし「国の責任は極めて重大だ」と批判した。

 人生を台無しにされた被害者らの悲しみと怒りを、国は改めて重く受け止めねばならない。

 昨年まとまった国会の調査報告書によると、国は本人の同意を得なかったり、盲腸の手術など別の手術に偽ることを許容したりした。判決が、こうした非道な行為を糾弾するのは当然だ。

 注目したいのは、不法行為から20年の経過で賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用しなかったことだ。高裁判決では判断が分かれ、焦点になっていた。

 判決は、旧法の差別規定が削除された96年以降も国が長期にわたり補償しなかったことなどを考慮すれば、免責は許されず、除斥期間が経過したとの国の主張は、「信義則に反し、権利の乱用で許されない」と指摘した。

 社会に存在する障害者への差別構造のため、被害者らは長い間、声を上げたくても上げられなかった実情を踏まえたのだろう。時の壁を打ち破り、救済への司法の強い意思を示したといえる。

 除斥期間については、過去の判例を変更し、著しく正義・公平の理念に反して到底容認できない場合は適用しないことが可能だとする新たな規範も示された。

 岸田文雄首相は判決を受け、「多大な苦痛を受けたことに対し、政府として真摯(しんし)に反省し心から深くおわびを申し上げる」と表明した。補償の在り方について可能な限り早急に結論を得るよう担当閣僚に検討を指示した。

 被害者らは高齢化が進み、残された時間は少ない。訴訟を起こした人以外に潜在的な被害者が多数いることは明らかだ。

 国は約1万2千人が生存していると推計する。しかし2019年に決まった一時金支給に対し、請求したのは今年5月末時点で1331人に過ぎない。

 政府は全被害者へ行き渡る補償の検討を急がねばならない。

 旧法が母体保護法に改正された後も、相模原市の知的障害者施設での殺傷事件や、北海道のグループホームで知的障害者が不妊手術や処置を受けていた問題が起きているのはいたたまれない。

 「負の歴史」を胸に刻み、障害の有無にかかわらず共生できる社会の実現へ向けた取り組みを進めていくことが肝要だ。