公的年金は老後の生活を支える基盤となる。安心できる制度とするには、支え手を増やし、改革を重ねていくことが求められる。

 厚生労働省は、公的年金の健全性を5年に1度点検する財政検証の結果を公表した。

 過去30年と同程度の経済状況が続く場合、現役世代の収入と比べた年金額の給付水準は、2024年度の61・2%が、33年後の57年度には50・4%になる見通しだ。

 現状より2割低下するものの、政府が目標とする「現役世代の収入の50%以上」の給付水準をぎりぎりでクリアした。

 女性や高齢者の労働参加が進み、保険料収入が増えると見込んだ影響が大きい。株高で年金積立金の運用が好調なこともある。

 しかし、年金財政は経済情勢に左右され、経済が停滞すれば給付水準は落ち込みかねない。

 厚生年金に加入する夫と専業主婦のモデル世帯は、現在若い人ほど給付水準が低くなり、老後の暮らしは心もとない。

 検証は、実質賃金を年換算でプラス0・5%、合計特殊出生率を1・36と設定しているが、足元の実質賃金は25カ月連続のマイナスで、出生率は23年実績で過去最低の1・20にとどまっている。

 現状に比べて想定は甘いと言わざるを得ない。「検証の想定には願望が含まれている」とする識者の指摘には一理ある。

 検証は外国人労働者の増加や株高についても見込むが、どれか一つでも目算が狂えば、その通りに推移せず、給付水準に跳ね返る可能性があることを十分認識しておかねばならない。

 国民年金は、保険料の納付期間を現在の「60歳になるまでの40年」から「65歳になるまでの45年」に延長する案があったが、今回の検証で一定の給付水準が維持できるとして見送られる。

 延長で保険料負担が重くなることへの反発に考慮したという。

 少子高齢化で保険料を払う現役世代が減少し、年金財政の支え手が減る中で、制度をどう維持するか。持続可能な制度とするために負担増の長所、短所を含めて議論していく必要があるだろう。

 支え手の確保には、高齢者でも働ける環境の整備や、子育て支援を強化し、女性の就業率を高める対策が不可欠だ。

 老後の生活を考える上では、「現役収入の50%以上」の水準設定が、年金の受給開始時の状況であることにも注意したい。

 年金の給付水準は、給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド」などの影響で、年齢を重ねるごとに低下するからだ。

 現在「満額」で月6万8千円の国民年金は、33年後の57年度に水準が3割低下する。国民年金のみで暮らす人には打撃が大きい。

 低年金でも安心できるような対策を急いで講じる必要がある。