「法の番人」である検察に対する不当な政治介入は許されない。このことを改めて認識させる判決だ。政府は真摯(しんし)に受け止めて事の経緯を説明し、真相を明らかにしなければならない。
安倍晋三内閣が法律の解釈を変更して東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年延長を決めた問題を巡る文書開示訴訟で、大阪地裁は法務省内の協議記録の開示を命じる判決を出した。
黒川氏の定年延長を決めた閣議決定は黒川氏の退官予定のわずか7日前で、解釈変更は「黒川氏の定年延長を目的としている」とする判断も示した。
解釈変更について当時の法相は国会で「検察庁の業務遂行上の必要からだ。将来の人事が理由ではない」と説明した。
今回の訴訟でも国側は、解釈変更を示す文書はあるが黒川氏の定年延長のために作成したものではないと主張したが、判決は「黒川氏の定年退官予定日に間に合うよう、ごく短期間で急きょ進められたと考えるほかない」とした。
国の主張を真っ向から否定した踏み込んだ判決だ。
安倍内閣は、「国家公務員法の定年延長制は検察官に適用されない」とする従来の解釈を変更し、定年の63歳を目前にしていた黒川氏の定年延長を2020年1月31日の閣議で決めた。
黒川氏は当時の菅義偉官房長官に近いとされていた。解釈変更による定年延長は、黒川氏を検察トップである検事総長に就けるためではないかと疑惑が広がった。
検察は政治家を捜査する組織でもある。その検察の人事に政権が恣意(しい)的に介入することは、検察の中立性を根本から揺るがす。
長年の積み上げでできたルールや決まりを法解釈の変更で転換させるのは、安倍政権でしばしば見られた手法だ。今回の判決は、そうした強権的な政権の姿勢を指弾したと見ることもできよう。
当時の法務省の対応も問題だったと言わざるを得ない。
なぜ、唐突に定年延長をするための解釈変更をしたのか。
「安倍1強」といわれた当時の政治状況の中で、首相官邸の意向で法の趣旨が曲げられたということなのか。霞が関に広がっていた「忖度(そんたく)」の風潮が影響したことはなかったか。
判決で命じられた文書の開示に率直に応じ、当時の経緯をつまびらかにし、国民に対してしっかり説明することが政府に課せられた最低限の責務だ。
検察を巡っては近年、問題のある取り調べなどが相次いで発覚している。先月には元大阪地検検事正が準強制性交の疑いで逮捕される事件もあった。
今週、検事総長に初めて女性が就任する。よって立つ国民の信頼を回復するため、組織を挙げた取り組みを進めてほしい。