制裁による経済疲弊や人権抑圧に苦しむ有権者が、保守強硬派政権が続くことに「ノー」を突き付け、変化を求めた。新大統領は改革を進め、国際社会との協調へと転換を図ってもらいたい。

 イラン大統領選の決選投票が行われ、改革派マスード・ペゼシュキアン元保健相が、保守強硬派サイード・ジャリリ最高安全保障委員会元事務局長を破り、当選した。改革派の大統領は19年ぶりだ。

 大統領選は、保守強硬派のライシ大統領が5月にヘリコプター事故で死亡したことに伴い実施された。最大の争点は、欧米との対立を辞さなかったライシ路線を継承するか否かだった。

 ライシ政権は、ウクライナに侵攻するロシアへ無人機を供給するなどして欧米と対立を深めた。核開発を制限する代わりに欧米が制裁を解除する核合意の再建に向けた米国との間接協議は停滞した。

 ペゼシュキアン氏の当選は、経済苦境が続く中で、国民の不満が表れた結果といえる。

 保守強硬派の締め付けを嫌った若者らも、ペゼシュキアン氏当選を後押ししたとみられる。

 イランでは、女性は公共の場で髪や体の線を隠す法的義務があるが、近年は、ヘジャブ(スカーフ)の着用強制に反発して髪を出す女性が増えている。

 2022年には着用強制に抗議するデモが全土で起き、ライシ政権が弾圧し、死者も続出した。

 ペゼシュキアン氏は女性に対する暴力的な取り締まりに反対している。女性の人権が守られる社会になるべく、動いてもらいたい。

 ペゼシュキアン氏は当選後、「改革を実行する必要がある。交流と対話の道を歩む」と演説した。

 保守強硬路線から転換し欧米と融和を図る方針や、経済低迷の要因である制裁解除に向け、核合意再建の公約を守る意向も示した。

 国家権力の中枢や、国会の7割以上を占める保守強硬派の反発が予想され、懸念される。

 最高指導者ハメネイ師が国政全般の決定権を握り、大統領の権限は行政権にとどまることもある。

 ハメネイ師は、ライシ路線継承を求める声明を発表した。ペゼシュキアン氏には足かせになるのは間違いないが、国民の期待に添うよう手腕を発揮してもらいたい。

 注目したいのは、中東情勢への影響だ。ペゼシュキアン氏は、パレスチナ自治区ガザなど不安定な中東地域での平和の維持に尽力する意向も表明した。

 イスラエルと戦うイスラム組織ハマスを支援する中東の大国であるイランが、安定化に向けて動き出せば、混迷する情勢から転換する可能性がある。

 岸田文雄首相は「ペゼシュキアン氏とも緊密に連携したい」とした。欧米諸国は新大統領としっかり対話し、中東の緊張緩和を進めていかねばならない。