民主主義の根幹をなす選挙の場での言論活動を、暴力で封じようとした凶行に怒りを禁じ得えない。到底許すことはできない。
米国民は、動揺することなく候補者の政策をしっかり見極め、11月の大統領選を迎えてほしい。
米東部ペンシルベニア州で13日、大統領選の集会で演説していたトランプ前大統領が銃撃され、右耳を負傷した。トランプ氏は大統領警護隊に囲まれ歩いて降壇し、車で会場を後にした。命に別条はなかった。
民主主義の模範となるべき米国で、それも大統領選の候補予定者の演説中に、凶弾が向けられたことへの衝撃は大きい。
警護隊は銃撃の容疑者を殺害した。発砲は会場の外からで複数回あったという。残念なことに、集会の参加者1人が死亡し、2人が重傷を負った。
撃ったのはペンシルベニア州に住む20歳の男で、米メディアによると、容疑者は警備が及ばない会場外の建物の屋根によじ登る姿が目撃されていた。
容疑者は死亡したが、捜査当局は、男がなぜこのような暴挙に及んだのか、早急に解明しなければならない。
トランプ氏は政敵相手に言いたい放題を続け、それが求心力を高めてきた一方で、米社会の分断を深めたとの非難もある。
とはいえ、暴力で言動を封じることは絶対にあってはならない。
バイデン米大統領は、「米国にこの種の暴力が入り込む余地はない。誰もが非難しなければならない」と述べた。
米社会で銃規制が進まないことも要因だろう。小学校でも銃乱射事件が起きるなど、関係のない多くの人が巻き込まれる銃犯罪は一向になくならない。
規制に消極的な共和党が抵抗し、法案審議が進まないとの指摘もある。今回の事件をきっかけに、共和党は規制へと積極的に動くべきではなかろうか。
今後の大統領選への影響も懸念される。有権者の間に、トランプ氏への同情やテロに屈しない強いイメージが広がる可能性がある。
米国民はバイデン、トランプ両氏の政策論争を、冷静に判断してもらいたい。
選挙演説中という不特定多数の人が集まる場での警備の難しさも改めて浮き彫りになった。
日本では、2022年7月の参院選の街頭演説中に、安倍晋三元首相が銃撃され死亡した。23年4月には、岸田文雄首相が衆院補選応援の際に爆発物が投げられた。
両事件を受け、政治家は警察庁の求めに応じ、街頭演説で聴衆との距離確保や警備員の配置などの対策を実施している。
政治家や有権者の安全を守るため知恵を出したい。暴力によって、選挙活動が萎縮するような事態は絶対に招いてはならない。