混乱は収まる気配がない。知事に向けられた疑惑の真相解明に県議会は尽力してほしい。公益通報制度に照らした県の対応の是非についても十分な検証が必要だ。
兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを巡り、兵庫県政の混乱が続いている。
発端は3月、県西播磨県民局長の男性が、斎藤知事のパワハラ疑惑などを告発する文書を作成し、関係者らへ配布したことだ。
文書で指摘された疑惑は7項目あった。職員を怒鳴り散らしたパワハラや、視察企業からコーヒーメーカーを受け取ったことなどを批判する内容だった。
斎藤知事は「うそ八百」と疑惑を否定し、「うその文書を作って流すのは公務員として失格」として3月下旬に男性を解任した。
内部調査を進めた県は、「核心的な部分が事実でない」として5月に男性を停職3カ月の懲戒処分とした。文書の内容は根拠がなく誹謗(ひぼう)中傷に当たると認定した。
しかし調査の中立性を疑う声が噴出し、県議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置した。
衝撃が広がったのは今月7日、百条委に出席予定だった男性の遺体が見つかったことだ。自殺とみられている。12日には、側近の副知事が県政混乱の責任を取るとして辞職を表明する事態となった。
斎藤知事は総務省出身で、2008年4月から3年間、佐渡市に出向し総合政策監などを務めた。
兵庫県職員労働組合や自民党兵庫県連会長が事実上の辞職要求をする中、知事は「県政を立て直すのが私の責任だ」などとして、続投する考えを強調している。
だが、根本的な原因が知事自身にあることは間違いない。県政の混乱と停滞を招いた事実を重く受け止めなければならない。
待たれるのは県議会の百条委による早急な真相解明だ。
男性は知事の発言の音声データや、百条委での質疑応答に備えた陳述書を用意していたことが、死後になって分かった。「百条委を最後までやり通して」との趣旨のメッセージも残していた。
21年の知事選で斎藤知事を推薦したのは自民党と日本維新の会だ。両党はもちろん、野党も一体となって真実を明らかにすることが、県民に対する議会の責務だ。
男性を懲戒処分にした県の対応についても検証が求められる。
男性が行った内部告発は、組織内の不正の是正につながる「公益通報」に該当しないのか。
該当するとすれば、通報者への不利益な取り扱いを禁止した公益通報者保護法に違反する可能性がある。県議会はこの点もしっかり調べてもらいたい。
公益通報制度を巡っては、鹿児島県警の情報漏えい事件でも、漏えいではなく公益通報ではないかと問題になった。制度の正当な運用、取り扱いが求められる。