環境相が具体的な解決への道筋を示さなかったことは残念だ。被害者から聞いた訴えを、どう救済へつなげるのか。
高齢の被害者に時間的な余裕はない。迅速に取り組み、全面解決へ導かなくてはならない。
新潟水俣病被害者団体と伊藤信太郎環境相との懇談が17、18の2日間、新潟市で行われた。
懇談は、熊本県で5月に水俣病被害者の発言が遮られた問題を受けたものだ。県内での被害者と環境相の懇談は、2015年以来9年ぶりになる。
団体側は、全被害者の救済や、早期に問題解決に取り組むことを要望したが、伊藤氏は具体的な解決策については触れなかった。
6月に全国の公害被害者と面会した際には、伊藤氏が「懇談は解決策を話し合う場にしたい」と述べていただけに、進展を望んだ被害者らには期待を裏切られた思いがあるだろう。
団体側は、複数症状の組み合わせを必要とするなど基準が厳しい国の患者認定制度の見直しを求めたが、伊藤氏は「最高裁判決で認定基準は否定されていない」と、従来の回答を繰り返した。
先週行われた熊本県での懇談でも同じように話し、被害者らは「ゼロ回答」だと反発した。
注目したいのは、伊藤氏が団体と省の実務担当者による協議を開催する考えを示したことだ。懇談後には、協議を来月にも開くよう省内に指示していることを報道陣に明らかにした。
被害者の中には協議に期待する反応もあった。協議が水俣病問題の恒久的な解決への糸口になるのか、注視していかねばならない。
被害者救済には認定制度の抜本的な見直しが不可欠だ。協議を進めていく中で、認定制度をどのように扱うのかが、大きな焦点になると考えられる。
昨年以降、大阪と熊本、新潟の各地裁では、国の認定基準で水俣病と認められなかった人らを、水俣病と認める判決を出している。救済制度の不備は明らかだ。
新潟水俣病被害者の会の小武節子会長は懇談で「被害者が亡くなってからでは意味がない。生きているうちの救済だ」と訴えた。
係争中の原告の平均年齢は75歳になった。協議の長期化は、何としても避けねばならない。
伊藤氏は「全力を挙げて解決のための前進を続けていく」と回答した。具体案を早急に示すことも必要だろう。
阿賀野川流域の住民健康調査も早急な実施が求められる。
九州の不知火海沿岸地域では2年以内をめどに始めるとしたが、新潟での実施時期については明言しなかった。この点にも失望を禁じ得ない。
懇談が伊藤氏のパフォーマンスだったと言われぬよう、今後の姿勢が問われる。