かつてのような精彩を欠き、身体的な衰えも明らかだった。高齢不安を打ち消すことができず、撤退はやむを得ない判断だ。

 大統領選は約4カ月後となる。民主党は立て直しを急ぎ、建設的な政策論争に打って出てほしい。

 11月の米大統領選で再選を目指していた民主党のジョー・バイデン大統領が21日、選挙戦から撤退する意向を表明した。

 81歳のバイデン氏はかねて高齢による心身の衰えが指摘されていた。78歳の共和党候補ドナルド・トランプ前大統領と行った6月の討論会では声がかすれ、言葉に詰まるなど高齢不安を露呈させた。

 その後も演説で名前を言い間違えるなど失態が続き、民主党内外から撤退論が上がっていた。

 トランプ氏が暗殺未遂事件に遭い、共和党の結束を強めて支持を高めたことも、撤退の流れを加速させることとなった。

 再選を狙った現職大統領の撤退は、ベトナム戦争の反対運動を受けた1968年のジョンソン大統領以来56年ぶりとなる。

 バイデン氏は声明を発表し、「再選を目指してきたが、身を引いて大統領の残り任期に専念することが民主党や米国にとって最善だと考えた」とした。

 バイデン氏は2020年11月の大統領選で、現職だったトランプ氏を破り大統領に就いた。

 トランプ氏の米国第一主義から国際協調路線に転換した。インフレ対策やロシアによるウクライナ侵攻、パレスチナ自治区ガザ情勢など難局への対応を迫られた。

 世界情勢が揺れ動く中、世界をリードする大国の大統領が高齢問題を抱えることは不安で危険でもある。撤退はやむを得ず、賢明な判断と言える。

 バイデン氏は後継の民主党候補としてカマラ・ハリス副大統領を支持すると発表した。

 59歳のハリス氏は米国初の女性、黒人、アジア系の副大統領として知られる。バイデン氏の支持を「光栄だ」とし、「党候補指名を勝ち取る」と立候補表明した。

 民主党は候補を正式指名する党大会を8月に開催する。

 時間が限られる中、トランプ氏への対抗軸となる候補と政策を国民にしっかり提示できるかどうかが当面の課題となる。

 トランプ氏は暗殺未遂事件後の共和党大会で、「社会の不和と分断を修復しなければならない」と融和的な姿勢を強調していた。

 しかしその後は、「バイデンは知能指数が低い」「頭がおかしいハリス」とののしるなど、事件前と同様に戻っている。

 バイデン氏の撤退表明に対しても「米国史上、最悪の大統領だ」と、なお批判した。

 これ以上、分断を進めてもらっては困る。真に米国、世界のための政策論争が展開される大統領選となることを期待したい。