三寸というと、9センチほど。長いとみるか、短いとみるかは人それぞれだが、手元の辞書によると「舌先三寸」という場合は短いことの例えだという。舌は短小な存在だが、便利なものでもあり、口先だけなら何でもできる。そこから口先だけで心がこもっていないことを意味する

▼ウクライナに侵攻したロシアが停戦交渉に絡めて首都攻撃の「大幅な縮小」を表明した。言葉通りに実行されるのか。それとも舌先三寸なのか。西側諸国には懐疑的な見方もある

▼こちらはどうか。「(信頼回復の)最後の機会であるとの覚悟を持って取り組む」。原子力部門の一部を柏崎市に移転すると表明した、東京電力の小林喜光会長の言葉である。柏崎刈羽原発でテロなどの防御策の不備が相次いだため、改善に向けた体制を強化する姿勢を強調した

▼原子力規制委員会の更田豊志委員長は「それだけで効果が出ると保証されたものではない」と冷静な受け止めだ。大切なのは現場の状況が正確に意思決定者に伝わるかどうかであって、本社機能を現場のそばに移しただけで改善が約束されるものではない

▼東電はこれまで問題が発覚する度に再発防止を誓ってきたが、その後も新たなミスや不具合を繰り返してきた。舌先三寸ではないのかという疑念を抱くのは、更田委員長だけではないだろう

▼首都攻撃の縮小を表明したロシアについて、米政府高官は「言葉と行動のうち注視するのは後者」と指摘した。この言葉、東電についても当てはまりそうだ。

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