安全意識が甚だしく欠如していた実態が明らかになった。消費者を置き去りにした後手の対応で被害を拡大させながら、トップは説明すらしておらず、上場企業としての責任が全く感じられない。
紅こうじサプリメントによる健康被害疑いを巡り、小林製薬が外部識者による「事実検証委員会」の報告書を公表した。
報告書によると、サプリ原料から検出され、腎疾患との関連が指摘されるプベルル酸を産生する青カビが、紅こうじ培養タンクに付着していたが、工場の品質管理担当者は放置していた。
品質管理業務は現場任せだった。人手不足が常態化し、上司への報告は不十分だったという。ずさんな管理体制にはあきれる。
また同社は、腎疾患症例の把握後も医師の問い合わせに「副作用の報告はない」と回答していた。
因果関係を調査している死亡疑い事例は、7月21日時点で当初発表分を含めると計101人に増えている。医師の警鐘を無視しなければ、被害の拡大を防げた可能性がある。消費者の安全を軽視した対応は許し難い。
問題なのは、組織として危機対応ができていないことだ。
経営陣による審議会は途中から、録画や議事録の作成をしなくなり、重大事故の恐れがある際に設置が定められている危機管理本部も設けなかった。
同社は、国などへの健康被害の報告基準を「因果関係が明確な場合に限る」としていたが、事前に社内で作ったフローチャートには因果関係が不明でも報告すべきだと定めており、矛盾していた。
評判や業績を優先した対応は、不信と疑問を抱かせるものだ。
同社が情報開示に後ろ向きな背景にはトップの意向があったという。悪い情報ほど早期に発表するなど丁寧な対応が欠かせないだけに、企業統治に疑問符が付く。
報告書はトップが、安全性確保へ率先して製品回収や注意喚起の判断、指示をしなかったとした。
創業家の会長、社長のトップ2人の無責任さが、被害拡大を招いたと言わざるを得ない。
報告書の公表と同じ日に、トップ2人は辞任するとしたが、記者会見を開かず、健康被害を直接説明することはなかった。これでは消費者らの不信を拭えるはずはなく、どこまで責任を感じているのか、首をかしげる。
サプリを常飲し腎機能が低下した消費者によると、同社から謝罪の一文が載った書類は届いたが、社長の名前はなかったという。
社長は引責辞任したが、健康被害の補償を担当する取締役に残る。社員が創業家の顔色をうかがう現体制が維持され、問題がたなざらしになることも懸念される。
再発防止を図るには、国など行政による徹底的な調査や指導が欠かせない。