労働者の処遇を改善し、賃金と物価がともに上がる好循環を実現するきっかけとしたい。中小零細企業が賃上げによる人件費上昇に耐えられるように、政府による支援策も不可欠だ。

 厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会の小委員会は、2024年度の最低賃金の全国平均を時給で1054円とする目安額を取りまとめた。

 現在の1004円からの引き上げ幅は50円で23年度の43円を上回り、上げ幅は過去最大、時給は最高になった。

 賃金は、今春闘で賃上げが相次ぐなど上昇傾向にある。とはいえ、物価変動を考慮した実質賃金は2年以上もマイナスで、労働者が厳しい環境に置かれる状況は変わっていない。

 全労働者に適用される最低賃金の引き上げは、全体の底上げを図る上で不可欠だ。

 岸田政権が最低賃金の全国平均を30年代半ばまでに1500円に引き上げる目標を掲げていることもあり、企業側にも賃上げの必要性への理解は広がっている。

 しかし人件費の支払い能力は経営状況で異なる。原材料や燃料などの費用が上がり、利益が圧迫される中で、賃上げの原資を確保するのは容易ではないという中小零細企業はあるだろう。

 政府は6月に成長戦略として掲げる「新しい資本主義実行計画」を改定し、中小企業の賃上げ支援を柱に位置付けた。

 立場の弱い中小企業が価格転嫁を進めて人件費を引き上げやすくするため下請法を厳格化したほか、省力化に役立つAIやロボットなど自動化技術の導入を促進し、生産性を上げようとしている。

 政府はきめ細かく目配りし、中小零細企業が最低賃金を上回る時給を支払えるように、支援策を急いで実行してほしい。

 注目したいのは、審議会が本年度の目安額の上げ幅で都道府県による差をつけなかったことだ。

 新型コロナウイルス禍にあった20年度などを除き、目安額は都市部で高く、地方は低く設定され、賃金格差が拡大する原因になっていたが、横並びとしたことでさらなる拡大は避けられた。

 ただ、時給が1163円と最も高くなる東京都と、最も低くなる943円の岩手県では220円、981円となる本県とでは182円の開きがある。

 最低賃金は47都道府県それぞれで設定され、今後の議論は都道府県単位の地方審議会に移る。

 昨年は目安額からの増額を選択した地方審議会が過半数に及び、本県は目安額に1円を、最大の佐賀県は8円を上積みした。

 賃金格差は都市部への人材流出の一因になり、若者をはじめ地域住民の注目度は高い。地方審議会には地元の企業・産業の実態に合う丁寧な議論が求められる。