戦火がやまず、世界が分断される中でパリ五輪が開幕した。平和を希求する五輪の基本理念が、世界に広く行きわたることを願う。

 選手らの活躍が、戦争や災害、貧困などに苦しんでいる人たちの勇気や希望になってほしい。

 100年ぶりとなるパリでの大会は、新時代の五輪を目指す。95%の競技場を既存か仮設にし、コストを抑制した。出場枠を史上初めて男女同数とした。

 「広く開かれた大会に」をスローガンに市民参加型とする。開会式を競技場外で開き、マラソンでは市民が同じコースを走る。

 それだけにテロなど安全面が懸念される。

 開会式直前に高速列車TGVの路線網に複数の破壊行為があった。五輪の妨害を狙った可能性があり、許されない行為だ。当局は警戒を強めてもらいたい。

 ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザでの紛争が、影を落とす大会でもある。

 500人近い選手やコーチを侵攻で失ったウクライナは、派遣する選手数が夏季五輪では同国最小規模となった。

 国際オリンピック委員会(IOC)は、侵攻を続けるロシアへの対応に悩まされた。

 「平和の祭典」の五輪で政治的排除が許されない中、IOCはロシアとベラルーシについて、戦争を支持しないなどを条件に、中立選手として個人参加を認めた。

 一方、ロシアのプーチン大統領は、五輪に代わる国際大会を開こうとしているが、分断に拍車をかけるだけではないのか。

 ガザでは、イスラエルの攻撃により、約400人の選手やコーチらスポーツ関係者の死亡が確認されている。パレスチナ・オリンピック委員会はIOCに、イスラエル選手団の除外を求めている。

 現状では、競技を通じて、相互理解と友情を育むという五輪の理想像には程遠い。

 世界陸連(WA)が優勝者に賞金を出すと表明したことも波紋を広げている。WAは選手の待遇改善を理由とするが、首をかしげざるを得ない。賞金を目的としないメダルの価値と独自性を損なうとの批判がある。

 一部の競技は24日に始まった。新型コロナウイルス禍で原則無観客とした東京五輪から一変し、会場に観客の姿やにぎやかな声援が戻り、喜ばしい。

 日本選手団の選手数は409人で、海外開催の大会では最多だ。日本オリンピック委員会は、メダル目標も海外開催最多の総数55個を掲げている。

 阿部一二三、詩両選手の兄妹連覇がかかる柔道や、レスリング、体操のほか、今大会初採用のブレイキンなどが注目される。

 体操女子はエース宮田笙子選手が、飲酒と喫煙をしたとして出場を辞退した。60年ぶりのメダルを目指す中で大打撃になった。

 本県関係では、セーリングで5大会連続出場の富澤慎(柏崎市出身)や競泳の水沼尚輝(新潟医療福祉大職員)ら8競技計10選手が日本代表に選ばれた。

 大舞台にひるむことなく、練習の成果を思う存分に発揮して、本県を沸かせてほしい。