「本年もよろしくお願いします」。新年のあいさつをしたのが、つい数週間前のように感じる。気ぜわしい日々を送っているからだろうか。時間の流れが年々速くなるような気がする

▼制限の多いウイルス禍の中でもある。お昼は一人で黙々と食べる。仕事終わりの寄り道は気が引ける。電車やバスで黙りこくって家路に就く。ひたすら用件をこなすだけで、周囲に目を向ける余裕をなくした感がある。視野が狭くなってはいないか

▼人間の視野が速度に応じて変わることはよく知られている。例えば、自動車の運転だ。立ち止まって両目で見る視野は200度あるが、時速40キロなら100度、時速100キロなら40度に狭まる。時速130キロだとわずか30度。速度が増すほどに見える範囲が限られていく

▼加齢も影響するという。高齢者は止まっているときの視野が160度程度になる。その上、視野の周辺部が認知しにくくなるそうだ。スピードの出し過ぎや急ぎ過ぎは慎みたい

▼ハンドルを握るときはもちろん、毎日の暮らしを考えても心に余裕を持って、ゆっくりと進んでいく価値が大切だと思える。車窓からは見えないが、歩いているからこそ見つけられるものがある。折々の草花など四季の移ろいはその一つだろう

▼春4月。新しい環境に慣れようと急いでいる人は多い。早く仕事を覚えたい。早く友だちをつくりたい。そんな気持ちもよく分かる。だけど、急がないからこそ気付けることがある。自分に合った歩幅を大切にしたい。

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