「金利のある世界」へさらに踏み込むことになった。金利上昇による暮らしへの影響をしっかり見極めたい。政府や日銀は、景気動向へ慎重な目配りが欠かせない。
日銀は31日の金融政策決定会合で、物価や景気をコントロールするのに使う政策金利の追加引き上げを決めた。
政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を、現状の0~0・1%程度から0・25%程度に引き上げる。
3月のマイナス金利政策解除に続く利上げだ。誘導目標はリーマン・ショック直後の2008年以来、約16年ぶりの水準になる。
植田和男総裁は会見で、2%の物価安定目標の達成へ「見通しに沿って推移している」と、引き上げの理由を述べた。
利上げは、円安に伴う国内の物価上昇圧力を抑える狙いもある。
日米の金利差を縮め、歴史的ともいえる円安ドル高局面の転換を図ることが喫緊の課題になっている。円相場は7月上旬、1ドル=161円90銭台にまで達していた。
利上げ決定を受け、一時1ドル=150円近辺まで円高が進んだ。
今春闘では大幅な賃上げが実現したものの、物価高を反映した実質賃金は26カ月連続のマイナスで、生活実感は良くなっていない。
今回の利上げが、国民の生活にどう影響するかも注視したい。
普通預金では金利が上がり受け取れる利息が増える一方で、住宅ローン契約者の7割が選ぶ変動型金利が上昇すると想定される。
企業が運転資金などを金融機関から借りる際の支払利息が増える。景気を押し下げるリスクがあることは気がかりだ。地方の中小零細企業が、どこまで利上げに耐えられるのかも心配だ。
植田総裁は利上げ幅が小さく、「景気に大きなマイナスの影響を与えることはない」としている。物価が見通しに沿って推移すれば、さらなる利上げに踏み切ることにも言及した。専門家は年内の再利上げの可能性を指摘する。
政府、日銀は、景気が冷え込むことのないよう対応してほしい。
日銀は、6月の会合で示した国債購入減額方針の具体的な計画も決めた。毎月6兆円規模だったものを段階的に減らし、26年1~3月に月3兆円規模に半減する。
これまで日銀は脱デフレを目指し、国債を大量に買って市場に資金を供給する量的緩和策を進めてきたが、国債の保有額は600兆円近くに上る。発行残高に占める比率は50%超と異常だ。購入を減らすことは当然だろう。
日銀は着々と緩和策を修正しており、通常の金融政策に戻りつつあるといえる。
政府にとっては国債の利払い増加につながり、財政の重荷になる。政策の必要性を見極めて、国債頼みの予算編成を見直すことが避けられない。